――さあ、 息を 吸って 吐いて

 ようやっと意識を取り戻したところだ
 警戒しなくていい、まだ起き上がらなくてもいい。
 そのままで聞いてくれればいい」

 

耳元を黄砂じりの風が びょう と吹き抜ける。
目を開けることすら困難な砂嵐の中で
頭上から降り注ぐ男の言葉もまた、酷く乾燥し、罅割れているかのようだった。

「あんたは運がわるかった
 俺が見つけるのは、いつだって "間に合わなかった先に抜けた" 奴らばかりだ。

 幸い残念乍ら、今日に限って「足」もある
 あんたが生きている間に、最も近い人類生存圏に運ぶことができるのは
 俺だけ 、ということだ。

 つまり」

「つまり、俺があんたの "最期" で "最初" の選択肢。
 好きな方を選んだらいい 俺はそれを拒みはしない

 

 ……どうせ近々、みんな 終わっちまうんだから」

少しだけ、ようやく首を回転させると
90度傾いた周囲の景色が、僅かな砂と同時に目に飛び込んできた。
この時代に滅多に見ることのできない、車輪の轍と
その後ろに立ち並ぶ、十字に組まれた廃材群と。

残念だが、世界は「終了」するそうだ。

それを根拠のない与太話と蔑ろにしているうちに
世界の大半はこの有様、見ての通りの空漠たる黄砂に埋もれてしまった。

わずかな生存圏を巡って人々の争いは止まず
敗れ放逐された者は、こうして黒い太陽の下、砂塵のあわいを当て所なく漂泊する他にない。

"最期" で "最初" の選択肢 と男は云った。
このまま砂に還るか、己を賭して再び黄塵にまみれるか、と。

 

ぴい、と鋭い鳴き声が聞こえた。

男が手を差し伸べる。
赤い小鳥が、男の肩の上からこちらを覗き込むように見つめている。
さあ、 息を 吸って 吐いて
男は砂に膝を着き、ただひとつの答えを待っている。

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