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父さんは物心ついた時にはいなかった。
浮浪者に囲まれてリンチを受けて死んだらしかった。
母さんは頭のいい人だった。
何処で学んだのかは知らないけれど、色んなことを知っていた。
だけれど大事な事を教えてくれてなかった。
『人間なんか信用するな』ってことを。
だから俺は、信じてしまった。
浮浪者の一団がやってきて、飯をくれて。
『今日は豊作だったからやるよ』なんて言われて。
そんな馬鹿な話を当たり前みたいに信じて。
一口齧って、それが今まで食べた残飯よりよほど美味しかったから。
母さんに持っていって、食べさせて。
そしたら丁度そこが、毒を入れた部分で。
…それを食べて以来衰弱してった母さんが。
死ぬ最期の瞬間に言ったんだ。『私を食べてでも生きて』って。
だから、そうした。泣きじゃくるほど嫌だったけど。
母さんの言う事をよく聞けよって、父さんによく言われてたから。
死のうと思ったよ。首に縄をかけてさ。
でも、出来なかったんだ。
丁度宙に浮いた時、縄が切れて失敗したから。
後で見たら、鼠が2匹で縄をかみちぎった跡があった。
それ以来生き続けてる。今までの話。