「――せめて、ヒマワリの花を見てみたいなあ。」

「ふん…………生き抜いてみせるさ。」

死は決して終わりではないーー

「なんや。騒がしなあ……。風の音くらい静かなったら、眠うなるからええけど。……あほらし」

「……ここもいけ好かないけど、他よりはマシかなぁ」
「おや、先客がいるようだ」

「辛気臭ぇ場所だな……」

「なんだ、人が増えてきたな？え？」

「……」

「元からこんなものだと思うけれど……。」

　常に人は入れ替わる……来訪者や死者が出るような場所ではありますし。

「よう喋る人が多いのは結構なことや。うちも大概やけど、賑やかさで勝負したら叶わんなあ。勝手に楽しんどき。うちは此処で座っとるだけやけどな」

「そりゃあこんな夜更けだからね、人も寝床を求めていくだろう。」
「入る前に見た空は生憎星が見えそうには無かったよ」

「ま、なんでもいいか。どうせ直ぐ色々あるだろうよ。」

「枯れ木も山の賑わいとは言ったもんだね」

「今日は底辺がやたらと賑やかだなァ」
「上からボトボト落ちてきやがったか？」

「なンだ、今日は口のきける奴が多いジャン？珍し」

「……人、多い」

「負荷が……ある」

「……確かに、かなり賑やかかもしれないね」
「こりゃあ業雨は期待できそうにないかな？」

「んな吹き溜まりで業雨期待するアホなんて居ンのかぁ？カカッ」

「カーッ。梟首会にでも行きゃいいもンを」
「もっと希望持って生きて欲しいもんだ。なァ」

ーー戦の用意は既に、整った。後は業を積むのみ也

──鼻唄ハミング。
遠く暗がりから、風に乗って微かに。

「どうせ奪い合いだ、気にせずやろうぜ。」

「だって、どっちも私のやりたいことが出来なさそうだし……。」

「此処で希望だなんだ嘯いたって詐欺にしか聞こえね〜だロ」

「その日を生きられたらそれで良いよ」
「希望とかは分からないし」

「奪い合う気骨のある奴ァ大体別ン勢力行ったと思ったんだけどナ」
「賢く生きよ〜ゼ。真正面からぶつかるこたねーヤ」
ハイエナ気質。

「うわ治安悪そう」
「入るとこ間違えたかも！ こわ～い」

「治安いい！治安いい！！治安いい！！！！」

「それもそうだねぇ。いずれ終わるといっても、もう終わっているような世界だ。」
「……おや、新顔。もしかしたらここが一番マシかもしれないよ？」

「違いねぇ、ま。奪ってくるならやるだけさ。」

「……生きたいの？」

骨牌を束ねる。

「どこに行っても大概ひどいって！？」
否めん。

「治安良い場所なんて残ってね〜だロ。寝惚けてンのかァ？」

「死にて〜奴はもう砂に吹かれて死んじまったよ！アッハッハ！」
「此処に居る時点で生きて〜奴ばっかじゃね〜ノ？知らんけど〜」
笑いどころではない。

紫煙を燻らせながら煤けた市街を堂々に闊歩する。
身に纏う綺羅びやかな装飾は掃き溜めには不似合いの。
肌の血色こそ悪いものの、浮ついた千鳥足だった。

「ったくよォ、人を詐欺師みてェに」
「お、カモが落ちてくるのは大歓迎。活きが悪いともっと歓迎」

「ンな事言うから詐欺師っぽいんじゃんネ」
おっラリってる奴おる。決めつけが酷い。

「そう……」「そう、何処へ行ったって同じだものね」

「こんな状況で平和だの手を取り合おうだの……そんなことは戯言になってしまうから」
「生き延びたいなら、他者に食ってかからないといけない。めんどくさいものだね。」

「ちり、あくた」「かるた」「金具」
ここには色んなものが落ちている。
ひとつひとつを言い示しながら、拾って、あわせて。
奇妙な物、ひとつ、ふたつ。

「さぁて、俺のお客さんになってくれそうな奴はいるかぁ？」

「意識だけは明瞭だが！」
明瞭にボケている。生まれつきの阿呆かもしれん。

「けったいやなあ」
興味も湧かないといった様子で、拾い上げる。壱つ、壱つ。

妙に騒々しいな。妙に浮いてる気がする。
もしやせんでも迷子なのか？いいや？
この際の迷子って。ひい、ふう、みい。

「おや、いつの間にやら貧民窟」
「随分酔ってしまったらしい」

額を抑えて馬鹿笑いする。浮いてるの、他ならぬ自分自身らしい。

「みんなドワーフになったのかい？
　それともゴミいじりが好きかな？僕は好き」

「生きてりゃハッピーなのにネ〜」
「欲張るから辛いんだゼ」
諸説ある。

「スカベンジの時間……？」

「色々拾ったけど」
「やっぱり分からないな」

種子も貴石も、持ってはいるが価値を見抜けない。

「ま、漁りゃマシなもんは出てくるからナ」
「クスリ切らしちまったし、オレも探すかァ〜？」

「価値と……負荷」

薬でトチってなんかございません。
合法のアルコールの。合法の法ってのがちと曖昧か。また爆笑。

「さて、いつから呑んでいたんだっけかな」
「随分長い期間な気もするし、そうでない気もする」

「おしめぇ以上に酷い場所も無ェ」
「とどのつまりは、全部酷い。良くしたいなら慈善活動でもしねェか」
「全財産を俺に寄越すとか」
声がデケぇあんちゃんを暇潰しに眺める。

「ハッピーにトぶにゃ量が足りなかったみて〜だナ！ゴミ山で目覚めるまでが人生だゼ」
しけた人生だなあ。

「じゃあ終わる前にやりたいことをやるために、
　何にも縛られないことって大事じゃないかな。」

「ゴミしか落ちてねーじゃねーか……」

キレそう。

「かるたは、いくつか。」
手をはたはたと叩いて、埃を落とす。
「…また商品を探さないとな。」

「汚れるんも、美しゅうなるんも何も変わらんし、どうでもええわ」

「うちは障子ん向こうの提灯灯り数えとるようなもんやで」
また壱つ、拾いながら。誰に向けるわけでもなく。

「……俺の酒、行方不明になっちまったなァ」
「酒ちょっと残ってる瓶でもあったら呼んでくれ」
手にしていた瓶を逆さにしてクソデケェ溜息。
ゴミ漁りに移行した。

「塵ばかりに埋もれているものを探すのも……一つの手段なのは確かだ」
そう言いながら座り込むだけ。

「ふゥむ、鼠の地下帝国に相応しい色味の少なさ」
「もっとこう、カラーバリエーションが必要かと思います」

周囲を見渡し、吸い殻をポイして踏み躙る。
つったって碌に見えてない。輪郭すら曖昧で。色が精々なもんで。脳がふやけてる。

「ゴミ拾いなんてやだよ～ッ！！」
「喧嘩はもっとイヤ！」
ずっとごねてる。ゴミは拾っている。

人混みよけるよに、影のもと、足取りたしかに伸び歩く。
ランタンがぼう、と揺れて。
今日は、ここにいることにした。

「ちっ、ゴミしか拾えねえな……」

「……この種子は、少しは使えそうか」

「ゴミ、ゴミ、ゴミ……ゴミばかり。いつもの事ですが」

はぁ、と小さく息を吐いた。

「やりたい事ねェ〜。夢でもあンのか？カカッ」
「おっ。いいの見っけ」

「素敵なゴミを拾おう！素敵なゴミを拾おう！」

「どーせ何処に行ったってスカベンジャーなンは変わんね〜だロ！カカッ」
「砂しか出てこなくなった時ァ、ま、死に時って奴かもナ」

「はは、粗悪品じゃあ我々人類」
「地に足着けて生きていくしかないのかも」
「あるいは来世に期待すべきだ。宇宙人とかをやるのも面白い」

来世っつったって廃れてそうなもんですから。

「ゴミに素敵という付加価値は……」
「いや、案外あるかもね。素敵なゴミ。」

「ゴミ拾いは……すこしたのしい」
「現状をほんのわずか、忘れられるから」

「酒ならあるよ」
持っている徳利を、くいと上げる。

「飲んでも渇くだけやけどな」
盃に注いで――無くなる気配がない。つんと匂いだけでわかる、かなり度の高い蒸留酒の類。一気に飲み干す。飄々とした顔。酔う気配はなし。

「ゴミはゴミだよ」
「それでも集めれば価値に変えられるけどね」

「まあ、毎日同じことをやってると飽きるっていうのは。
　間違いないと思うけれどね。」

酒代になりそうなブツを拾ったかニヤケ面。

「他人にとってゴミでしかないものも――誰にとっては価値あるものかもしれない。」
「……こんな状況でこんなこと言うのもなぁ。私もゴミ拾いでもしようか。」

「夢は素敵だね。さあゴミを拾おう」

「へぇ……金具を焼却すると、そこそこの業になるらしい。」

「酒も、芥も、人間も、商品だ。皆それぞれに、価値がある」
傍の鳥に話かけるように、誰に言うでもないように。
「ある、から、拾う。それだけだ」
「残滓だが…僕には要る」

「貴金属と宝石をばら撒いて、それに群がる人間たちを見てほくそ笑むような生活がしたい」
「断じてゴミ拾いではない」
荒唐無稽。

「すまんが霞を飲んで酔える仙人じゃねェンだ」
ゴミの臭いで匂いも分からんらしいな。

「おっ酒のニオイ。景気良いねェ〜〜」
「オレぁゴミ拾い好きだゼ！偶にアタリが混じってて楽しいしィ」
「錠剤か注射器ならなおヨシなんですけどォ……」

「生きとし生けるもの、薪を焚べ続ければならないのは義務だ」
「退屈でしょうが、品切れになるまでの辛抱ですよ」

娯楽と無縁そうな人々だ。紙煙草に火を点す。

「店ん人多いんか？　ようやるわ。価値言わはるなら、酒の零れた後の土にでも言うてあげはったらええ。……花咲いたら誉めたるわ」
また盃に酒を注ぎ。一滴残らず飲み干した。

「酒とか煙草とか」
「よく大人が吸ってるけど、美味しいの」

「同業者って減ったと思ったンだけど、まだ残ってンのかねェ……？」

「俺達は……勤勉な清掃業者か……博愛精神あふれるボランティア集団だったのかもしれねぇな……」

黙々とゴミを拾っている。
もしかしたら俺はチンピラではなく、真人間だったのかもしれない……。
これが奉仕の精神……。

「集めた業も……やがては……」

「子供には勿体ないくらいおいしい」

「うちにはもう味分からんから、美味しいかの回答は他の人に頼んどき」

「存在するからには意味があり、価値があるんだ」「のさばる死体ですら」
からんからん、灯火の飾り金が音を立てる。
「こんな芥溜まりの街も、歌っている」
男は古物商であった。

「カカッ。酒も煙草も砂を肺に入れるよか楽し〜もんョ」
「拾ったら試してみりゃいーじゃんネ。減るンは無い健康だけですンでェ」

「私利私欲のためのゴミ拾いは奉仕活動に入るかな」

「価値……」

「煙草てのは幸福を招く蝋燭ですよ」
「美味か不味で言えば後者」
「しかし、脳を腐らせるにはこれが効く」

煙を宙に向けて吐き出す。退屈凌ぎに過ぎない。

「私は煙草も酒も口にしたことがないな、もしかしたら人生損しているかもしれない。」

「お酒は私には呑めないから、
　みんなで楽しんで。」

「砂を肺に入れるんも、光るん見つけるんも、酒に映る月と同じや。揺れて崩れて、飲んで過ぎたらはい終わり。うちはどうでもええ。それで楽しめるんなら、幸せもんやなああんたら」

「酒、煙草、女、ギャンブル。
　人生を最高に楽しくしてくれる三大要素さ……」