「今日はどこまで行けるかしら。
今日はだれと会えるかしら」

「～♪」

へらっとした男が鼻歌混じりに歩いている。

「まったく…ここは変わらず煌びやかね」

黒髪の女も、歩いている

「んー、眩しい！朝焼けみたい。」

ふらふら。

「信じるべき、そして楽しむべき、素晴らしいとも」

「ヒャッハー！！！」

適当に駆け回っている。

「へへ、ここなら一発逆転が狙えるんだろ……？」

顔も印象に残らなさそうな男が、
周囲を見渡しながら歩いていた。

少女が火かき棒で地面を叩くと、かんかんと甲高い音が鳴った。
その眩いネオンも喧騒も、少女の前にはモスリンのベールのよう。
瞳は伏せたまま、物や人にぶつからないよう。

隅の方を大人しく歩いてく。

「走ってる人がいる。転ぶと危ないよ」

「うわっ、走り回るなんて……よっぽど何かあるのかしら？」
「どちらにせよ、野蛮ね。あーあ、景観が損なわれるわ」

「元気な人がいるねー。」
ニコニコ眺めている。

「おーし、今日も私は元気や！」

フリフリの服を着た女はルンルンと感情を歌う。

「心配御無用だぜお嬢さん！！！　俺のソウルは転ばねぇからよ！！！」

「ヒャッハー！！！」

「元気なやつが多いね、まぁ良いことか」

「……野蛮で粗野？嫌になっちゃうわ」

「あんなのと一緒にされたくないなぁ…」

テンションを下げた。
スン。

「元気なお人が多い」

勿論、そうじゃない人もいるだろうが、さておき。

「随分と元気な連中が多いなァ……？」
如何にもここ慣れした良い女に、はしゃぎまわる男。
そしてフリフリの服着た女に、まともそうなやつ……と。

「……ああん？」
火かき棒を杖代わりにしている女。

きょとん。

「いやはや…面白いとも。
野蛮な………本当に野蛮そうじゃぁ無いですか！素晴らしい！」

恐らく賑やかな方ではない少女。
変わらず音を立てながら、なんとか人を避けている。らしい。

「ン。　僕はEvaだよ、お兄さん」

お嬢さん、とは自分にかけられた言葉だったろうか

「そう呼んで」

「何？野蛮追加？」
「ああもう……今日は光の中と思ったのに！台無しだわ」

「…………」

木偶の坊のように背の高い男だった。
白くぼやけた髪を梳き、ただぼぅと周囲を見渡す。

「ヤババンな野蛮人やな」
「でも元気なのはいいことやで」

「野蛮フェチでもいんの？
まぁ、僕は野蛮じゃないからなんでもいいや」

「元気は勿論良いコトよ？」
「けどね、野蛮は別。邪魔ったりゃありゃしないわ。」

「せめて、おとなしくできないのかしら」

「賑やかなのは〜良いことだよー。」
呑気に言う。

「…………」

低く、穏やかな溜め息。
どうにも、聞こえて来る声は多い。
嫌気が差すわけではなかった。

「賑やかだこと……」

「寝る時間になったら静かになるさ。」
此処は寝る時間など無さそうなほど、明るくて五月蝿いけど。

「こほっ」

咳き込む。

「俺の歩みを止めたければ理由と誠意を持ってくることだな！！！」
「ヒャッハー！！！」

「野蛮フェチてなんやねん。
そんなマニアいるんか、いるかもしれんな…」

いろんな人がいるよな…お嬢様はうなずいた。

「気のズレた者はいれば居るほど良いですとも！そうは思いませんか？
ズレた波長が増幅させるは賑やかさ、つまりは今を楽しむ事に繋がるものですから…」

「野蛮フェチって何？」
「他人の性癖を決めつけるなんて、アナタ頭が固いのね。可哀そうに」

「ごめん、何言ってるかよくわからん。
特殊な趣向の持ち主なんだな」

「理由と誠意の前にアナタが止まりなさいよ。」

「つまりみんな違ってみんないいってことやろ！
今日も私はいいこといったで～！」

せやろか。

野蛮人がいたらきっとぶつかってしまう……。

「やっぱりこのへんは素敵なお姉さんお兄さんがたが多くて嬉しいね！」
「どうせなら死ぬまでに、
　目いっぱいイイモン頭に詰め込んでから死にてえわ」

しーっ。

がさごそ。喧騒を余所に、探し物。
塵芥とはいえ、ここでは価値があるに違いは無い。

「自身も世界もどうせ滅ぶのなら、終わりまで楽しむのが健全というものだからな」

「暗い顔して一生を終えるなんか御免だからな」
「今からでも誰か誘ってお茶でもしたいところだが、
　まあ流石に時間が遅すぎるかね」

「ここは毎日新しい趣味や趣向が生まれてる気がするわね」

これまでもそうだったのでしょう。

そこら辺を歩き回っては、何かを漁っていたり、かと思えば踊っていたり、歌っていたり。

「……まぁいいか、楽しそうでなによりだな」

「そこの嬢ちゃん、そんなところいたら
爆走野蛮兄ちゃんにぶつかるで！
私のところ安全やからおいでおいで！」

危なそうなので…手招きしてます。

「そりゃ同意するけどなあ」
世界も自分も滅びるのなら、
良い女とかに囲まれて死にたい、
というのは本音。

「だから、ここに来てる連中がほとんどじゃねえの？」
辺りを見回して、そう言葉を出す。

「そう！どうせ滅ぶのですよ！ならば同一で画一されたものより、全てが違う方が絶対に良いと言うものです！」

「まったく……騒がしいのは常だからいいのだけれど」

「夜も楽しみすぎると朝と昼の楽しみを逃してしまうからな」
「健全に夜を楽しみ、健全な睡眠の後にまた楽しむのが最適な終末ライフだ」

お嬢ちゃん、こと少女の耳は動くけど。
声の殆どを拾っていない。

ああ……野蛮人めくるめくネオン街……。

「心地よい眠りじゃなくて、夜が明けるまで踊り狂うみたいに遊ぶのもー、また一つの考えだねぇ。」
うんうんと頷いている。

「人にはぶつからないように細心の注意を払っているぜ！！！」
「俺も完璧に予測できるわけじゃねぇなるべく近寄らない方が身の為かもなぁ！！！」

走りながら。変に律儀だ。

「それもまた健全。残された時間が少ないからこそ、寝ぼけ眼に映るくそったれな世界の朝、あるいは昼がまた違った見え方をすることもあるだろうな」

「滅ぶときはみんなで笑顔でって決めてんねん！
私はにっこりが好きやからな！」

悲しきかな。
ネオンに流される声は届かなかった。

「一夜を共にするため、
　穏やかに添って寝るのもオツなもんだぜ？」

「俺は美人目当ての男だろうと、
　ちょっと時間をくれたら楽しませてみせるぜ。
　酒、賭博、なんだって使ってね」

お嬢ちゃん、と呼ばれる少女の傍らに佇む木偶の坊。

野蛮人が多かろうと構わない。

「どうして変に律儀なのよ、そこ」
「せめて当たり屋の方が納得できるのだけど？何？」

「いやはや今日も善き哉善き哉。
　全てが灰燼と帰すまでの日は刻一刻と迫ってる、
　ああ素晴らしい日和だ」

「もし仕事があるなら、なんだって受けるわよ？」
「……見返りと、アナタ自身次第でね！」

誰のことだろう？

「優しさがあるのは、良いこと！」
とても笑顔になる。

「ふむふむ。一緒に寝るのもいいねぇ。素敵だよ。」
二人だと心地よいのかも、と考えたり。

「俺は下衆山下衆雄！！！　野蛮人ワイルドなガイだぜ！！！」

多分そういう質問ではない。

「終末という終わりが決まっているからこそ、
　それまで楽しもうとわくわくもするものだ。
　かく言う私もわくわくしている」

野蛮人ワイルドガイ輝くネオン街である。

「一夜を共に、ね……」

その夜は穏やかだろうか。
それともトンチキな程に賑やかだろうか。
どちらにせよ、寂しさは感じまいな。

「何者か訊いたワケじゃないのよ」

「アレが楽しむ工夫ですか〜、律儀さから得られるものですねぇ」

「良いやつなのか悪いやつなのか分からんな」

「いいねえ、ワイルドガイ。
　セクシーギャルと同じぐらい無くてはならんもんだ」

「楽しいワイルドガイというのは確かだな。
　煩く喧しいのがいるのも実に終末らしい」

「どうしよ、野蛮人ワイルドガイって言われるとカッコよく聞こえてまうねん…。
セクシーガールは無理やけどキュートガールならいけるで」

「野蛮人ワイルドなガイ、だけど」
「何者かは教えてくれる、ここで一番丁寧なヒトかも」

「……まあいいわ。野蛮男下衆山が名乗ったもの。呼び方ぐらいは教えてあげる。」

「アタシはワンディ。そう呼びなさいな」

時折何かが耳に届くのか、耳が誰彼の方に向けられる。
けれどその全てを理解はしていないし、する日もきっと来ない。

「ワイルドガイ、強そう〜。」

「可愛い、可愛いね。」

「……で、このアタシが名乗ったのだから、アンタ達全員、名前くらい名乗りなさい」
「さもないと、そこの野蛮男下衆山以下認定よ」

「名乗るんだ」
「ワンディ、これで貴方もワイルドだね」

「手厳しいね。ワイルドガイだからといって、
　別に劣ってるわけじゃないと思うけどなあ」
論点が奇妙な男は、からからと笑った。

「俺はチュエ。苗字だけで通してる。
　何なら囚人だしな、その点で言えば俺が一番底辺だろうよ」

「ワイルドガイ以下、ドブネズミガール？良いかも。地を這って生きてるみたいで格好良い。」
頷いている。

「うちはオーバーフローだよ。お風呂って呼んでね。」

「ワンディ嬢もワイルドか、走るか！！？？」

WILDとRUNを同一視しているのかもしれない。

「おやおや、野蛮以下とは酷い事も言われるものですねぇ！これも面白さと言ったところか！
ワタクシ、ヴェレット・デ・ロワと申すもの！いやはや、よろしくお願いしますよ〜？」

「私はキコ・ビスカイノだよ」
「苗字は厳ついので、気軽にキコと呼んでくれ」

「美人のオネーサンに請われたからには、
　名乗らなければいけませんねェ～～～～！！」

「私はシャルパスと申します。残り短い人生、
　出し惜しみ無く色々と楽しんでいきましょうじゃないですか！」