「…そう。睡眠障害…。…重たくてやんなるよ」

同じように眠たそうなお姉さんだなぁと見ながら頷いた。

「拳って…。ふふ、結構武闘派なの？」

拳1つで向かおうだなんて勇敢な女の子だ。

「ふふっ、ここ梟首会では荒事は早々起きない…とは思いますけどねえ。」

監視の目も多い事だし。
相克でバトルはあるかもしれないけど。

「あら、大変ですねえ……
あ、丁度曙光の方に、『夢』を売る方が居ますよ。
もしかしたら、何か改善したりするかも。」

丁度、この魔女も昨晩お世話になって来た所だ。
お陰で絶賛眠気と気怠さが酷いが。

「まぁ護身術はお嬢様レッスンで習っウワァァァァ許してや！ただモノ拾っただけやって！誰も殴らんって！私お嬢様やって！！」

監視員に目をつけられたらしい。
そのままお話になった。

「夢を…？へぇ…曙光には近い内に行ってみようと思ってたんだ」
「興味あるし、売ってる人探してみるよ。
　ありがと、お姉さん」

良い夢を見せてくれたりもするのかな。
眠れたって悪夢ばかり。願ってもないことだ。

「お嬢様だったんだ。…あはは、気を付けてね…」

監視員に厄介になってるのを見て苦笑いした。

「……まあ、詳しい話は、店主に聞いて下さい。」

夢売りを探せば、きっと見つかる筈と付け加え、監視員とお話してる人を見ている。

「お兄さん物騒な事は無理やなぁ
凶器向けられたら全力疾走やで」

幾度と作った骨牌にふ、と息を吹きかける。
埃が飛んで、芥と黄塵の中に混じっていく。

「僕も物騒なのは無理。
　全力で逃げるしかないや…」

「むー。」

貴石と金具が溢れてて早くどちらの街に行ける骨牌を作らなきゃだそうです。

「……ふふっ、暴力から一番遠いのが、此処ではないですか。」

武装お嬢様居たけどさ。

「あら。」

唸ってる子いるね。

「お兄さんもそのうち他の場所行こうと思っとるんやけど、暴力蔓延しとる所は行きたかないで」

いくつも立ち並ぶ廃ビルの割れた窓から
前脚で窓枠を蹴って、こどもが飛び降りてきます。
四つの脚はひとより丈夫に受け身をするもので
なかなか器用に着地を決めたでしょう。

みぎ、ひだり。見回せば昨日見た顔がちらちらと。
この街にも知り合いが増えてきたかもしれません。

「ん、建物が」「大きい」
監視員の目から逃れつつ、METROの方から一人の少女が。

廃ビルから雨を眺めている

手持ちのものから今日の行き先を確認します。
一枚目はこのままだと虫の縄張り曙光になるでしょうか。
それでいて鎖も拾っていますから、結局全て回ることになりそうです。

「っと、おや……」

塵芥を一纏め、焼却しては灰を被って。
顔を上げれば見ない顔が数人居るな。ジィと見つめた。

「……雨でも降ったかね」

帽子にかかった雨粒を払った。
塵が舞い落ちる様子をぼうっと眺めていた。

「いっぱいだー」

ポケットがいっぱいになってしまったようです。
今日はここで過ごすことでしょう。

骨牌を切って再び梟首会へ移動してきた。

「…………はぁ」

赤くなった頬を冷ますように手団扇扇ぎつつ、種子を灼く

「雨が降ったの」「ここだったんだ」
そう言いつつ、空を眺めたり。

「暴力的な場所は避けたいものだけど…」
「…って、子供が増えて来たねぇ」

相変わらず眠そうにしたまま
新たに来た人達に目を向けた。

「おはよう　ござい　ます」

昨日からここに滞在している。
雨で増えた業をみて、きゃっきゃっと笑う。

「そう……昨夜の雨は、ここだったみたい」
「私が来た時にはもう……降り止んでたけど」

タッチの差で間に合わなかった

「……あら、人が増えましたね。
ええと、しろちゃんも。」

辺りを見回して

「残念、だね」
「今日の雨は」「どこに降るかな」

「他所は見てないから……わからんが」

怠惰にしている。
周囲をだらけた視線で眺めた。

「……決まりの範囲なら……何事も無いだろうよ」

「きのう　ここに　あめが　ふったから、ここに　くる。」
「そういう　ひとも　いるでしょう」

「あめ　どこに　ふるのか　な」

手を組んで目を閉じ、空を想う。

「おや……人がどんどんと増えてきたね」
「逆に、連続して降るわけがないと考える人もいるかもね」

どこに降るんだろうね、なんて零しつつ。
適当な瓦礫に腰掛けて辺りをぼんやりと見ている。

「ひとびとは……」「絶えず移動している」
「さっきまで曙光に居たけど……あそこは賑やかだった」

雨が止んだ。立ち上がり、歩き出す

「……探しに行くのは面倒だな」
「当分此処で良い」

「きのう　ここに　いなかった　ひとも、みなみな　こんにちは」

「きょうしゅかいに　いるつもりの、いうえお　です」
「みなみなー」

「聞いてた話より」「良さそうなとこ」
「わたしも、暫くはここでいいや」

「吾も当分はここにいよう。秩序的な場所は好ましい」
「ならば自己紹介は必要だよね。吾は“ア”だよ、よろしく」

「雑な名前ばっかだな……」
失礼な感想。
「……俺もか。キャップ。帽子被ってるから」

「ん、自己紹介」
「……名前、ない人はどうすればいいかな」

「ざつな　なまえ」

「そうです　か？　ぼくは　きにいって　ます！」
「つけて　もらった　なまえ　なので！」

「…僕も基本ここに居る予定」
「帳 夢斗だよ。よろしくね」

小さく手を振って見せた。

「なまえ……」「なまえは、収奪された」
「私には、なにもない」

「雑なんてそんな。凡愚的と言ってほしいな」
「キャップとイウエオか。覚えておこう、よろしく」

「名がないなら付ける他無いね。希望の名はある？」

「なまえ　なければ　つける　とか。」

「もしくは　ほにゃららの　ひと　みたいに　よびたい　です」

「呼んでもらえるなら」「なんでも」

「ほにゃらら？
そんな人、いるんだね」

「ふふっ、名前も色々ありますからねえ……」

「ああ、私のことは魔女とでもお呼びください。」

まともな名前いないのか？

自分が雑な名前だからそう感じるのかも。

「……まあ呼び名が無いと不便だよな」
「見た目だけわかれば……呼べなくはないか」

「ほにゃららは　なんか　わかんない　ところ」

「とうさんが　そう　いってた」

「おや、今は名前の話題かな？」

「希望……」「与えられるのなら、あるいは……」
「……それまでは、適当に……黒い人とか……スー　で」「いい」

「名前無い人2人いるじゃん。いや理由は違うけど」
「兎にも角にも……君たちは魔女と夢斗だね、覚えておく」

「わかんないところ、気になるかも」
「うん」「呼び名とか、自己紹介してる」

背を伸ばし溜息を吐く。
すり減らした靴底で砂利を擦った。

｢フゥ〜｣

「秩序っぽいしな……自己紹介」

「こんな世界だから名前のない人が大多数かもね。」
「ふむ、自己紹介……せっかくだから私もしとこうか、短い付き合いにはなりそうだから。」
「弥刀璃星、璃星とでも。」

「少なくとも混沌の場では行われない行為だね、自己紹介」
「君は璃星か。よぅく覚えておこう」

「くろい　ひと」「すー」

「すー　さんの　"ほにゃらら"　は　くろい！」

｢へえお行儀いーことやってんのな｣

ひとつひとつの名を聴き、頭に入れておいた。
……覚えられるかは別として

「良いじゃん。秩序っぽくて。
　…名前が分かると挨拶はしやすいし」

「ほにゃらら……？」

「おぎょうぎ　いいこと、　わるいこと　です？」
「なかよく　なるは　いいこと　です！」

「名前覚えるの」「にがて……」
「間違えたら、ごめんね」

｢悪ィとは言ってねえよオ、
Metroだとかじゃ滅多に見られねえから律儀だな〜って思っただけ！｣

「Metro……暫く行ってないな……」
「よく見る顔は、曙光に居たから……今どうなっているかわからない」

「名は大事なものだ、それは呪いにも祝福にもなり得る。」
「名はなくても、呼び名だけで自分自身の象徴となる、いいことだ。」

「METRO」「いいとこだったよ」
「腹部と背中を、殴られたけど」

自分から始めたことだ。
名前はよくよく覚えておく。

「なまえ　だいじ」
「とうさん　いって　ました！」
「なまえが　ひとを　あらわす　って」

数時間ぶりに戻ってきた。
相変わらず不自然な歩き方で。

適当に空いている場所に座った。

「ふぅん、METROってそういうとこなんだ」
「背中と腹部だけで済んだならまだ良いところかな」

「METROの雰囲気は私も好きだな。」
「……うん、秩序は保証出来ないけどね。」

「わるいことじゃ　ない」
「じゃあ　いいこと！」
「いいことです　ね！」

「METROは行ったことないな…」
「良いとこなのに、殴られるって何…？混沌な感じそう」

「頭に、包丁が刺さってる人」「には気をつけて」

「ええ、名前は大事な物ですよ。
その人そのものと言ってもいい、魔術的にも重要な物です。」

「故に、私はおいそれと名を名乗れないのですが。」

一応、魔女を名乗るだけあるらしい。

「頭に包丁が刺さってたら……死んでね……」

｢人間生きていられるだけイイトコってぇ言うならどこもユートピアだろうなァ｣

「頭に包丁……多分見たことあるかも、その人」
「一般人を名乗ってたけどやっぱ要注意人物なんだ」

「めとろ　なぐられる？」
「あたまに　ほうちょう　ささる？」

「こわい　です」

包丁、と聞こえペンを走らす。
『剣は今曙光で縄張り争いに負けて地面に埋まっているよ。』

「縄張り争いに負けて地面に埋まっている？？？」

「刃の方には……まぁ気を付けた方が良いだろうね。」
「彼は殺してもらう為に襲い掛かってくる、そして殺す為に襲い掛かっても全力で抵抗する。」
「……こういっちゃなんだけど、めんどくさいね。彼。」

「あの人、埋まってるの……？」
「なんで……」

「うわ…メモしとこ」

ポケットからメモ帳を取り出して
先ほど聞いた名前達と、頭に包丁について軽くメモ。

「ついに埋まったかぁ。」

『犬に、負けてたな。』
そのまま手で土をかけるジェスチャー。

『少し掘り返したが、疲れたからやめた。』

「あの包丁マンが曙光に現れたの、見間違いじゃなかったんだ」
「疲れてるのかと思ってここまで来ちまった」

「ころして　もらう　ため　おそう」
「ていこう　してくる」

「……」
「……」
「どうぶつ　みたい」

「うわ。すごい高慢的なことしてるね……」
「死にたがりなんだ、彼。よくよく覚えておこうかな」

｢ハハ、死にたがりなんて相当贅沢者だなア｣

「犬に……？？？」

「犬」「犬に……？」
「結構、深めに埋まってるんだね」

「犬も生きるのに必死だろうからね、そりゃあ縄張り争いでもするか。」
それはそうとなんで埋まっているんだ？

「負けて人権が無くなったから……？」
知らんけど。

『そんな感じ。埋まる前に梟首会ここに縛り付けておくか、という話も出てたな。剣。』

「それは」「押し付けてる、だけじゃ……？」

「いぬ　つよい　です」
「ぼくも　まけます」

多分違う犬で違う負け方だと思う。

「そういえば刃の彼はここ梟首会だと幾分かマシな口調をしていたね。」
「……押し付けには変わらないか。」

「どこでも、噂で持ち切りだね……」

それだけインパクトが強いという事か