「少なくとも、僕のような未熟者が此処や曙光で必要とは思わない」
「だがMETROは違う。四肢がない、目が見えない、耳が聞こえない……
　出せる物を持たない者が最も多い場所があそこだからだ」

「あと、せっかく免許持ってるし…」

「黒髪君は、あれだろう。
　医者というか、研究員だと思うな、あれは…」

黙々と作業していた。

気づけば3000近くしかない業。
賽の河原をしている気分だ。
模擬的な地獄を味わっている。

「え、兄貴、鼠どもの巣窟に行くんですか」
「チャレンジャーというかなんと言うか…」
「あんま無茶せんといてくださいよ」

「チョコ水配ったラ人気者になれ……はしね〜カモ。毟られるのがオチだナ……」

冷静になった。あと泥水は別に啜らなくていい。

「ありゃ医者じゃね〜だロ。いいとこヤブだ」

「うえ～流石に削ぎ合うのは守備範囲外だな……
　ナイフかアイススクーパーでも持ってんのかね、METROの浮浪者は」

「俺は・誰も見下してないからな！
　可哀想だと思うのも、傷つくだろうなと思うのも、
　対等な目線に立つための思案の過程だ。次には固めておくぜ」

「オトナ以外の遊び場についてももうちょっと勉強しとかなきゃなあ」

｢財産盗られたくねえ…これは俺のモンだ…｣
貴石や種などをぎゅっとした…

「護身については俺は問題ないな。
　人体はある程度分かってるし、算命術もある」
「よっぽどのポカやからさなきゃまあ、死にはしない」

「よそ者から施しを嫌うやつもいそ～　これも想像」
「一応土産も持っていくか、なんか」

疲れた、と仰向けになる。
明日はどうしような。何も考えていない。

「ンなプレイ……するヤツも居るカモだけど。それよかビョーキの心配しろってハナシ」

肩を竦めた。衛生観念が終わっているMETROなのだもの。

「対等ねェ。良く分かんね〜ヤ」

他人の高さを慮れないから。
貴方がなんとなく真面目そう、というふわっとした感想を抱くくらい。

「なんや、目隠れ兄ちゃんも行くんか！
なんか安心出来る気がしてきたで！」
「私は雨が降った後に行って、
やばそうやったらすぐ曙光に帰るで。
帰りの 骨牌 キップはあるしな」

「ま、METROも結局はみ出しモンの集まりだシ。価値観が梟やら黄金虫連中よかバラバラなもんで、あんま分かんねェよな。その辺」

お土産とかさ。オレもわからん……。

「最近ァ奥まで行かね〜ナラ観光客？も増えてっし、表で喋ってるヤツはま〜比較的大人しいとは思うケド〜」

「でもさ、診察も手術も100％成功するわけじゃないじゃん」
「時間、薬剤、手遅れと色々事情があって最善尽くしても治せないやつだっている」
「それは医療的知識が無ければないほど、治安が教養を必要としてないほど」
「その愚か者が思うのは『医者が藪だったせい』ってならない？」

感謝されるばかりじゃないなら。
それは特権ではなく貧乏くじだ。

『このまま、誰か私に仕掛けて業持っていってくれ。』
そう紙に小さく書いてそのへんに置いた。

「んま、帰りの切符があンなら大丈夫っショ！」

それをスられなければ。
あーだこーだ言うよか飛び込んだほうが早い。脳死の結論。

「問題ない……」

「僕は記憶もあやふやな藪医者だからな。
　カンで医療行為をしている…」

「俺も雨が降ったあとに覗いてみるかな」
「シモの病のこと考えるの久々すぎて忘れてた。
　まあ……まあだな、直接は何もできん。たしかに」

「帰りの切符はあるその２～」

「うん、なんというか贅沢品は持ってたら
ほぼゲームオーバーなんやな。
お土産はちっちゃい一口チョコでもええかな…」

個包装されてる奴。

「それ自分で言うンだ……」

いやまあ否定できないけどさ。
いつか記憶を取り戻してスーパードクターになるのかしら。

喉の女の子の紙を診ている。

「マジか女医の姉さん……」
「……」「マジか……」

話を横で聞いてて、口に出すことはないが、
いつになくしかめっ面をしていた。いや、カンはいいとして。

最善尽くしても治せないやつだっている。
そこが、いやに頭に響いていた。

「おい」
「医学部だと思ったら工学部かよ」

患者の患部で図画工作か？

「とんでもない医者じゃないですか…」

「待って、勘で医者やって医者名乗ってたん？」

まともだと思ってたらそうでも
なかったかもしれねえ…。

「声でネ〜お嬢ちゃんァどーしたの？ヤブレカブレなの？？」

首をひねった。

「METROじゃ真艫な医者なんざ貴重ですんでネ……ま、気ぃ付けテ」

曙光なら治療できるとは思うけどもね。一応ね。

「先生はユガミのスーパードクターですよ。
　何があってもその価値は揺らぎませんっ。これからもず〜っと……♡」

「METROだと日常茶飯事だカラ、そーゆー常識的な反応が飛び交うとおもしれーナ……」

いやほんとに。

「…………」


『剣にプロポーズされてな。そのために減らしている。賽の河原、助けて。』

「大勢診て、大勢死んだ。僕が直接的に死なせた者もいるだろう。（※大分います）
　だが、どっちにしろ放っておけば死ぬような者ばかりだ」

「すがる藁が無いよりはあった方がいい。
　恨み罵る相手がいないよりは、いた方が良い。そして……」

「運が良ければ、治る。また生きられる。不幸にもな」

「まあ俺は」
「たとえ『藪だったから失敗した』と思われてもいい」
「と、」「……思う」

「それでやめたくなるならやめちまえばいい」
「そこで手を止めない、一握りの大馬鹿が」
「本当に医者に向いているだろうさ」

『鉄軌の骨牌。鴟梟の紙片使用、二倍。』
簡潔にそう書き足した。

「碌でもねえ日常茶飯事なんですが…」
「まあ、METROですもんね」

「剣ちゃんが……プロポーズ……」

「それは頭の剣の方か？刺さっている人間の方か？」

「刃マンかョ。あいつも変なヤツよなァ」

言ってることは真艫というか、哲学的というか、アレなんだけど……。

「成功率はアレだけどそこのセンセは真面目ですからね。いやホントに……」

真面目なのよ。記憶が追いついてないだけで。

「あら！プロポーズだなんてお熱いですね。
　二人の仲を応援しておりますよ」

「成程、そう考えると随分医者や工事屋ってより、宗教家に近いな……」
「怪我傷へ対処が取れずに死ぬよりは」
「人が縋った先が万全を尽くした、と思わせてくれる結果の方が」
「随分と空には上りやすいか」

「チュエ兄ちゃんもメトロ行くんやな〜
はんさむパワーでなんとかしてもらお」

「…無いよりはマシかぁ…。
そうやんな、安心は…出来るもんな。
でも救える確率がギャンブルすぎるで…」

「驚いたな、二重の意味で」
「医者がそんなこと考えてると思ってなかったよ、赤髪のセンセ」

骨牌をまた火にくべて、肩をぐるぐる。

「シンプルに肩が凝る……」

「曙光や梟んとこに来れる足か図柄があったら」
「なるべく来てくれよ、マジで……」

頼れない奴がMETROに溜まるんだろうが。
やるせないものを感じるばかりだ。

「もちろん、ちゃんとした医療を提供できるに越したことはない。
　だがそれを望むには……厳しい時代だ」

「気休めという意味では、確かに僕は宗教家なのかもな。
　なんか……ラセン君も狂信者っぽい感じはするし……」

「は……」

大人しくしているうちに、つい眠っていたらしい。
持ち物を確認し、自らの業が目減りしていない事を認め、ようやく安心した。

喋れない者の置いたメモに近づいてきた…
業2倍の文字に釣られたようだ。

「まぁ、お兄さんがMetroでリンチに合わないように祈っててや。」

「婚姻……そう」「こんな世界でも、まだ営みは生きているのね」
「…………おめでとう、って言うべきなのかな」

「自分は実際に、先生に命を救われているのです。
　もう治らないと諦めていたのに。あなたの奇跡的な腕で。
　狂信者よりお嫁さんになれたら嬉しいです♡
　毎日お味噌汁作りますから。」

「同業者の皆様の事も、
　もちろんとても尊敬しておりますよ。」

「狂信者と言われたらかなりそう」

頷いた。

「帰りの切符は握っときなネ」

ゴソゴソ、と骨牌を取り出す。
念の為どんな柄かは出さずに…
騙されて奪われたらたまったもんじゃない。

「洒落にならんけど私も気をつけへんとボッコボコになる気がする」

「ナースとドクターはラブラブなんやなぁ…」

眺めた。

「ほんま気をつけてくださいよ？他のMETRO行くって人たちも…」
「最悪財布でも投げて逃げてください命獲られるよりマシでしょうし」

「METOROはかくれんぼにぴったりだよー。だってここより真っ暗だもん！」

「METOROは遊び場ではないと思うが…」

その割には子供多し…

「命大切に〜。」

「ラセン君は親身にしてくれるし、声もルックスも良いんだが……
　四六時中こうなので、結構疲れる……」

「だが、実際助手がいるのは助かる……」

「かくれんぼ＝命懸けのかくれんぼにならん事を祈るわ。
でも私チビやから鬼ごっことか得意やで、学校ではハムスターって言われてたわ」

「大丈夫やって
いざとなったら奥の手使って逃げてくるわ」

「ま、行ってそんなに危険じゃないジャーン無事でした！の方が良いからネ。
取り越し苦労になるくらいが丁度良いらしイ」

無警戒で行く奴もそう多くはないとはいえ。

「どこよりも暗いのはソウ」

「しのは昨日あっちMETOROでお休みしたけど大丈夫だったよー。みんな飽きてお話に夢中になっちゃうんだから！」

「お兄さんそんなに頼りなさそうに見えるんかなぁ、タッパはあるで？」
一応180cm

「どこも変わらないから……」
「でも、そう」「生きる理由があるのね」

「つ　疲れる！？」

ガーン……！

「わあああ〜〜〜んっ！
　そんな、そんなっ。悲しいですっ。先生にプラスでない感情を抱かせてしまうなんてっ。
　わかりました。今日からツンデレでクールなラセン・ユガミになります」

「助手としての腕については、変わらずお任せください♡」

「とりあえず気をつけて行ってくるで。
METOROの事色々教えてくれてありがとな！
ゴミ箱食べようとしてた兄ちゃん！
私は行く前にシャワー浴びてくるで…
べちゃべちゃやねん…」

呼び方はアレだけどめっちゃ感謝してます。

「うーん、まあ…兄貴なら大丈夫やとは思いますけど…俺みたいに愚図な訳とちがうし…」

「アチコチ行ってる奴は肝の作りがやっぱ違うんですかね」
「あそこでかくれんぼだとか、休んだとか…」

｢財産をスられるのは怖いが…METROって俺の店の商品が売れそうなんだよな
さて、たかられずに売るにはどうしたものか…｣

「レーちゃんは行かへんのか？」

「METROは外部の人間が思うほど、悪いところではないよ。
　まあ……多少びっくりするようなことは多いかもしれないが……」

「ツンデレでクールに……？？？」

想像ムズ。どうなるというのだ……。

「良いってコトよ。ま、折角のMETRO観光なんだシ？楽しんでネ〜〜」

「そこのオニーサンァ売人？何売ってンの〜？」

「まあ、あそこは気の良い奴も多少は居るな…自棄になってる奴に近づかなければいいだろう」

「そんなに怖くないョ〜つってうっかりスリだのに遭うよか、チョット怖がらせといた方が良いとこナイ？」

親切心のつもりだ。一応。ゴミ箱たべたべオニーサンですけどもね。

「俺は…よそはあんまり行きたないんですよ」
「ここ以外だと…馴染んでしまいそうなんで」

「日が変わる頃には……何処へ行こうかな」

今日もまたアテがない

｢まあ…薬品を売ってるっつーか
自分に使って多幸感を得るヤツも 相手に使って弱らせるヤツとか色々売ってる｣

「血をどろどろ流す遊びより子供の遊びをした方が楽しいよ。世界が終わっちゃうからね。」

確認。
ヨシ。

『ありがとうね。』
簡潔に。
そのまま仰向け。

｢ちなみに何かを治療できるようなモンは売ってない
その辺は医者に頼んでくれ｣

「METROに向かわれるのですね。
　行ってらっしゃい」

｢フフ…｣
勝負が決まったらしい。満足そう。

『賽の河原～…。』
ちまちま再開。

「……ところで、業を減らすこととプロポーズに何の関連性が？」

「ァ〜。おクスリとかネ。オレもほし〜なその辺〜。
METROじゃ……んま、一部は買うンじゃネ。警戒もされるカモですけどモ」

「刃マン、業の無い純真なヤツに殺されたいゼ〜！みたいなコト言ってたし、ソレじゃね」

分からんけど。

「日ぃ変わったらオレァMETROに戻ろっカナ。お嬢ちゃんは定住してね〜ノ？」

「そーいや、Metroの子達は飛び道具かなんか持っとるんか？」

「ん、おや……」

塵芥を掬って燃やして灰被り。
顔を上げたら見知らぬ方が何人かいるね。

｢飴ちゃんだって言っておけば
知らねえヤツは騙されるし知ってるヤツも需要があるなら買いに来るかな…｣

うげっとなりながら袖越しに金具を持つ。

『そうそう。「私と一緒に寝ませんか？　安らかな眠りを約束してやるからよ。」と言われてね。』

そのまま燃やす。
やり直しになった。

「定住……住む場所は、ない」
「私には、なにもない」

「ェ〜？ンなの個人に依るンじゃね。
それこそ武装してる連中はしてるシ……？？」

そう表立って武器は抜かないだろうが。
METROの特に表層はそういう奇妙な均衡がある。

……なんせ怪我したヤツはハイエナされて死ぬので。争うのが得策ではないがち。

「ふふふー。塵も積もれば何とやら〜。」
探しては燃やしてを繰り返している

燃やしたはずの金具がまた出てきた。

燃やした。

「剣ちゃんのワガママに付き合ってる訳か……」

ちょっと呆れた感じの声。

「なんや、全員が全員殺しにくるわけちゃうか…いやそうよな、ウン。」

｢その剣ってヤツ俺噂でしか知らねえんだよな…実際に見たことない｣

「業のない純真な奴ですか」
「それになる為に業を無くそうとしてるなんてなんというか…」
「健気ってやつですかね」

「律儀に付き合うンだ？？」

優しいのね〜。

「騙して売ンのは構やしね〜ガ、次から買われなくなっちまうゾ？」
「んま、売り逃げすンならそれでもいっか」

「頭の包丁をぐーってやってたら正気になるってー。多分！」

ほんとかどうかは定かです。

「雨、止まねえなァ……」

往診帰りの男がぼやく。
降り始めは趣きを感じていたというのに
人間、ゲンキンなものである。

「罪な男ですねぇ。ちゃんと責任取らなかったら
　自分がボコボコにしに行きます」

「あ。でもユガミは先生のワガママなら幾らでも……♡
　じゃなかった。
　別に先生のことなんて好きじゃないんだからね。」

「一度見たら忘れないよ。分かりやすい特徴があるから」