「よし、石は食べちゃだめだよ〜
また飴玉あげるからね」

とりあえず小石を持ってなかった方の手で軽く撫でてから離れようか

「瓦礫とか……食べるどころか飲み込めないだろ……」

「そーやね、飴ちゃん舐めとき」

「メトロには瓦礫のお料理店がありますの？」

「え？責任とか取りませんけど……おねーさんは甘いものだけ食べて生きてる砂糖菓子系女子ですけど……」

無責任！！！

「んー」

撫でられると機嫌の良さそうな声が出る。
瓦礫やらは流石に食べ……。
………………。…………………。

そこにあれば口に入れてしまうかもしれない。
子供というのは阿呆で莫迦で無知なのだ。多分。

｢専門店じゃなくても叩き売りされてるぜ｣
｢しかも、タダだ｣
瓦礫。

今日はいつもより眠れた分、良く動けた。
業もそこそこ貯まったし、休もうかな。
適当な場所に腰かけて深い溜息をついた。

「おや、いつの間に人がこんなに」
「今の話題は……瓦礫を食べる方法かな」

塵芥、集めて燃やして灰被り。
ふと顔を上げれば近くの瓦礫に腰掛けた。

「タダだとしても食べないでね、瓦礫。
まともなもん食べてくれ……」

「こんばんは、今日の話題は……」
「……ええと、ここってMETROじゃないよね？」
瓦礫食べる人なんてあそこでしか見たことがない。

少女は何も分かっていない顔をしている。つまり、にこにこだ。

「瓦礫なんて食わへんで飯を食え飯を」

瓦礫を食べる想像をして顔を顰めた

「まあ！　タダで掴み取りし放題ですのね」

砂埃にまみれた手をうごうごと動かした。
大きくも小さくもない手だ。

「瓦礫以外にはないのかしら、食べ物」

｢じゃ、俺ァそろそろ飯種でも集めるかな。それじゃ～｣
ヘラヘラわらって。すり減った靴底を擦って歩いてく。

おお、刀のお兄さんも来たね。
まあ、この姿で声を掛けられないのは変わらないんだが。
手元にある金具をどうしようかと弄ぶ。
丁度話が出てるし、瓦礫が気になるテイで行ったっていいが……

「いし　たべる？」
「うーん」

「がんばれば　できる　かも」

「ここなら種とか食べるんじゃないの？
妙に高く業になるはずだけど」

「行ってらっしゃい、瓦礫は食わないでね……

瓦礫以外にも食い物あるとは思うよ……多分」

「あーぅ」「むー」
「うゅ」

「少なくとも梟首会ここに限って言えば、
　頑張って食べる必要性はないんじゃないかな……」

「石は食べるものじゃないよ……」
「そう言えばMETROは劇場跡近くに肉まんが売ってるって聞いたことがあったな、ホントかどうかは確かめてないからわからないけど。」

「飯を食えと言うとるやろ…」

「…その頑張りは他で活かすべきだろうねぇ」

「まともなものを！食べようね！！！
お金ないなら買ってあげるから！」

「瓦礫食べてんの～？」
「エグ」

見はすれど、せっせよいせと塵拾い。
他人のことは気にかけられるほど余裕ないんだわ。

「親切な人らが沢山居るもんだ」
「この街も捨てたもんじゃない」

小石たべたべゾーンに寄ろうとして、
やっぱやめた。煙草を咥えて火を点ける。

「肉まん……ですの？」

以前行った時は気付かなかったな。本当にあるんだろうか。
この姿で顔出しちゃいないから、知ってても首傾げるんだけど。

「今度、食べに行ってみようかしら」

「秩序の街で拾い食いが横行されてるとは」
「思いませんよ」

それこそMETROならともかく。だ。

「うぉぉ」
「ラーメンが食いたい」

「多分その肉饅、ダンボールが混ざってますよ」
「鼠辺りがそんな噂流したんでしょう」

「へぇ、METROの方で肉まんが」
「こちらの方にも出張して売ってくれないかな」

「がんばるの　いいこと　ですよ！」
「せいいっぱいが　だいじって　おそわりました！」

曙光でも小石をたべたべしていた子供だが……

「ぅ」

特に話も理解していないし、言う事も無い。
今飴ちゃんなめてるし。

「メトロって肉まんあるん？
…まともな材料やとええな…」

どうだろうな。

「ダンボール」
「……いや、混ざっててもおかしくないけどね。これ言ってたのは鼠耳の方ではなかったよ。」
「だからって信用できる訳じゃないか……」

「本当の飯ってやつは曙光で見せてやれるんだけどな」

「段ボール肉まん嫌すぎるんだけど……
異物混入じゃん……後石を食べることに精一杯はしなくていいんだよ」

「それ混ざってて良くな～い？」
「肉もあるんでしょ？紙オンリーってわけでもないならアリ」

「段ボール肉まんは……食べれなくはないけど」
「積極的に食べたいとは思わないね。やっぱり出張はいらないかも」

「たまには、食の記録もとらないといけませんね」

優先度を下げてしまいがちだ。

「メトロで、ソーセージなら作ったらー？はしたけどなぁ。
肉まんなんだそこは……」

「曙光の肉まんとラーメン食った方が美味いで、此処の飯も美味いけど」

「……曙光はなぁ」
行きたくなさそう。飯の旨さより嫌なモノがあるっぽい。

「うー」「あ」
「んむ」「むむむー」

「それにしても」
「ネオンビカビカタウンと比べて、ここは静かですわ」
「フェリエを復興させるなら、こういう所でやるのがいいかしら」

物拾いに座り込んでいた場所から立ち上がる。
可憐な動作でスカートについた埃を払ったりなんかして。

「海……があったりしたら、もっと素敵ですわ」
「ないのかしら？」

「ちゃんとしたとこで、ちゃんとしたもの食べた方が良いでしょ」
「…まぁ、それなりの対価がいるけどさ」

「フェリエってなぁにー？国？種族？
終末に復活させるんなら、滅んだ後の方が良いと思うけども」

「やっぱ曙光がご飯関連も含めて好きかな……
海……ないんじゃないのかな……話聞かないし」

「ふぅん、曙光にも肉まんとかラーメンあるんだ」
「やっぱり享楽の勢力というだけあるよね、そこ」

「海、か。あったとしてもまともな色してなさそうだ」
「見てもダメだし泳ぐなんてもってのほか、とか想像に難くないよ」

「フェリエとはなんだ？新しい魚か？」

「海はないけど風呂ならたくさんあるね」

「んーう」「うー」

「魚介ラーメンならワンチャンあるか？いやメダカの寿司はいやだぞ」
ワンちゃん……

「海より砂の事ばかりここでは聞くけどね」

「フェリエはわたくしのお家ですわ！」
「もう誰も信じてくれないけれど、大昔は名家だったらしいの」

スカートのポケットを、慈しむようにぽんぽんと撫でる。
古ぼけたハンカチが入ったポケット。

「わたくしはフェリエの最後の生き残り」
「どうにかして、過去のフェリエを取り戻すのが夢ですわ！」

「お風呂そんなに沢山あるんだ、初めて知ったな。
海は変な生物居そうだ……」

なんて言うけど全部嘘だ。
まあ、真偽を確認する術はない。ならば噓でも本当でも同じ事。

「天然の真珠が取れる海が好ましいのだけど」
「やっぱりむずかしそうですわね……」

「しゅーぐあん　いったこと　ない」

「いや」
「さいきん　ずっと　ここ　います」

外の景色、知らない。

「ご実家だったかぁ」
「名家とかの復興って、ロマンあるよね……成り上がり感が」

「風呂は……うん……」
口を挟むのは止めた。
「家の復興かぁ、この状況だと大変とかそういうレベルじゃなさそうだね。」

「金持ちの気配を感じるで…あの女の子…」

「名家のフェリエ。復興が目的……か」

「こんな状況になっても生きる目的を持てるのは良いことだ。
　無責任な言葉にはなってしまうけれど、頑張って欲しいね」

「今度来なよ、僕よくそこにいるからさ、歓迎するよ。

真珠……この状況だと途方もない価値になりそうだ。」

「今度サクヤくんにもお風呂案内してやろう。
　曙光じゃ業さえあれば水浴びぐらいはできるけど、
　風呂でさっぱりっていうとアテがないこともあるだろ」

「え、お風呂案内してくれるの？
僕、シャワーばかりで、銭湯とか行ったことないから楽しみだ」

「かんげい　ですか」

「わー　うれしい　です」

一人で居るのは心細いし。

「何にそんな唸ってるんですか」

飴ちゃん美味しい！！って感情表現か？

「せめて、お家らしいお家は欲しいですわね！」
「お世話になった使用人たちのお墓も作ってあげたいの」
「広くて、静かで、安心できるような場所に」

金持ち。といっても元、が付くだろうな。
たったひとりの、子供の生き残りだ。
あまり持ってなくとも違和感はないだろう。そう踏んでいる。

「真珠も……一度でいいからお目にかかりたいですわ！」
「それを素材に絵を描いて、そうしたら」
「少しは過去に近づけるかしら」

くっく、と笑ったりもした。

「まあ任せておきなさい。曙光の店ならだいたい知っているからな……」

「…………」
赤マフラーの子が、ちゃんと普通の……想像しているような風呂に入れるように密かに祈っている。

「……お風呂ってそういう意味……いや、何も言うまい……」
大丈夫だといいなぁ。そう願う程度の善性はありました。

「うん、歓迎だよ。
僕も一人は寂しいしね。」

「ほんと！ それじゃ約束ね！ お風呂楽しみ〜」

「あぶなそう　ですよ　さくや　さん」

「こんな、死んだら即灰からの業コースの所でお墓なんて、やさしーお嬢様だねぇ。
復興した時にはそれはそれは大きな立派な所になるよ」

「あの子は……曙光のそういう面とか知らない感じなのかな……」
少しというか、だいぶ心配。

あれって子供が騙されてる風景だったりするのかな。
変な店に連れ込まれなければいいんだけど。
今の姿だと初対面。口をはさむ訳にもいかないか。

「…何かお風呂の話聞いたら入りたくなってきた」
「行ってこよ」

立ち上がってどこかへと去って行った。

「お風呂はね……うん……」
「こう思っちゃうのは誘ってる人が人だからかな……」

腕を組みながら僅かに眉を顰めている。
すれば休憩は終わった、と言わんばかりに塵を集め始めた。

「うー」「ん」

「ふう、さっぱりしました」

ちょうど自室で風呂を済ませて着替えた少女が街に出てきた。

「夜は人通りも多いですね……」

「え、でもお風呂でしょ？
そんな変なお店に行くわけじゃあるまいし……お風呂って言ったらあの、大きな浴槽のアレでしょ？」

「……いや、うん、曙光だからって先入観があるのかもね？」
「でも風呂って……う、うーーーーーん……」

「日が変わる頃曙光行く予定やけど、誘われたらお兄さんは逃げるよ」

「……何事も、少し深めに怪しむくらいが丁度いいよ？」

「うー」

湯上りの良い匂いに鼻がひくひくする。
お風呂の事を思い出している。

「人を見目ばかりで判断するのは良くないよ本当に。
　泣いちゃうよ色男も」

「フェリエとは名家だったか……」

「大浴場か？違うのか……？」

「いやぁ一応疑ってはいるんだよ？
前科あるし……けどやっぱお風呂はお風呂だし……大きなお風呂は入ってみたい！シャワー生活から脱却したい！」

「うふふ。みながいた印を残すのも、きっと当主の役目ですわ」
「わたくしまで繋いでくれたこと、忘れたくありませんから」

死んだり、いなくなったり、散り散りになったり。
そうしてひとりになる寂しさは、“知っている”から。
嘘に混ざる、真実も少々。

「デッカいお家になって欲しいですわ～！」

「……そのお風呂って、ソープとかのことじゃ…………」
言うことにした。

いつもの姿だったらいい感じにフォローできそうなんだけどなあ。
周りの話は、よくわからん風に首傾げておくか。はにゃ……？

「んーう」「ぅー」