【風邪薬チャレンジ】
【3以下で患者は助かる】
[2d6]

「あーん♡♡先生に褒められちゃいました♡
　もう今日はおかず無しでご飯3杯いけます」

「おお……これは……
　惜しかったな……」

泡を吹いて動かなくなった浮浪者の脈を確かめて、かぶりを振った。

「なんや今日は舞台もやっとるんなあ」
勿論演技ではないことは解りきっている。

いつものメトロの光景堂々としたヤブ医者の姿。
中年は朗らかに笑っている。

「あっ……」

「おめでとうございます。
　あなたの風邪は治りました。こちらのレントゲンを
　し、死んでる」

「ふふっ、好き勝手にするとも。だから、貴方のそれも忠告として私は受け取らせて頂くよ。…貴方の望む幸福も訪れると良いね、だから今はその美酒の邪魔をしてはならないね」
そうして、男は肩をすくめるのみ

「あ～……たいへん」
「お医者さんに助けてもらわないと」

「惜しかったは何？」

「あれは本当に医者なのか…？」

「ぉあ〜……」
神妙な顔で手を合わせた。なむさん

「アレをアレして滅茶苦茶にしたら治るはずが、アレな結果になってない…？」
来世に幸福を託すかと、合掌

「い、今すぐ刻めばまだ使えるかも──」

何が？
倒れた者を救おう（？）と立ち上がろうとしたが──
足が痛い。すぐに座り直した。

「いけるラインではあったんだ……ワンチャンはあった……」
「……ただ、病で苦しむよりは良い結果だった事を祈るしかないな…」

浮浪者をさっきのずた袋の隣に埋めた。

「向日葵畑、なんてのが。砂に埋れる以前にはあったらしいですね」
「や、しかし、世間知らずのお嬢さんに現実を押し付けてしまいますが」
「今日に於いては夢幻に程近い」

今更種を撒いて育てようにも。水もなけりゃ種もないのだし。

「運の尽きってヤツか……」

可哀想に！
ちっとも可哀想に思っていない顔で、巻きたばこをもくもくやった。紫煙を吐き出す。
いい感じに脱力してきた……。

「医者って実はワンチャンって言葉が禁止ワードなんですよね」

「苦痛と共に命を取り除くタイプの医療者…？」
確かに苦しみは消えたかもしれない。永遠に。

「酒の肴にもならへんなあ」
死体を眺めながら堂々と酒をあおっている。

「ユガミはいつでもワンチャンありますよ。
　寝室の鍵のパスワードを先生にだけ教えますからね。」

「指用コンドーム買ったのでよろしくお願いします」

「科学者はワンチャンって言葉でご飯を食べてますよ」

「…………」

ネズミを捕まえようとした……
が、ネズミと思ったのはただの塵芥だった。

「技術も安心も富がなきゃね……」
膝を抱えて収集の成果を揃えたり燃やしたりしている。
そろそろ寝床を探した方がいいかもと思いつつ、ダラダラ。

「こんな世の中だ……ワンチャンにでも賭ける者は多い」
「僕はそういう者に対して僅かでも手助けできるのだろうか……？」

途中から自問になった。
埋める手際は滅茶苦茶良い。

「こんな危険な場所にいられるか！」
「私は部屋に戻らせてもらうぞ」

部屋ってどこだろう、今日初めてここに来た。
一旦立ち上がってうろついたあと、元の位置に収まった。

「手慣れていらっしゃる」

「ラセン君はこんなだが、どちらかというとニャンチャンなのだと思う」

「おおっと、痴情のもつれは御勘弁」
「全く不必要なワンチャン情報が懐に増えてしまったな」
「聞かなかった事にしてみます。一旦」

「ワンチャンじゃなくてワンちゃんに賭けて。」

「この場所だと特にワンチャンでもあるだけマシかもしれないねぇ…なら、その希望を得られる時点でかなりの手助けじゃないかな、多分」

「あ、そーゆー関係性？いやフツーに妄言かあ。センセも苦労するねェ〜〜」

ケラケラ笑って。
ふとゴミ漁りの手を止めた。

「……お。揃った」

やっとか。

「うう～ん、そういうのって医師見習いの言い出しそうな事ですね」

自問自答する医者に助けを乞う患者、余程銭のない奴でしょう。

「できる　できる　絶対できるって
　今の行けたって　次はできる」

熱血教師みたいになっている。

「ユガミが猫ちゃんってことですか？
　お任せください。」

「希望なあ。どこぞのやかましい兄あにさん思い出すわ。まだ夢見れるん、ほんま幸せもんやなあ」

「実際、怪我の後遺症で記憶を失っているからね。
　見習いというのは間違っていないかもしれない」

「精進中の身だから、手術料は無償でやっている……
　何かあったときには力に　なれるのか……？」

「大事なトコ疑問形なんだ」

「なれる」

即答。

「痛いのも苦しいのもヤなんでそういう時にありがたいかも〜」
安楽死目的で頼ろうとしている？

「ワンチャンに賭けなくて良いように努めたいですけど」

「無償の死あいってことか…」

「せめてもう少しまともな医療は提供できないのか？
　対価を取ってもいいぐらいのな…」

この場では贅沢な話かもしれない。

「……練習相手ならゴミ漁ったらぎょうさんありそうやなあ」

「自分で疑問形になってるじゃん。」

「要らない部品を分けてくれたりするなら、
　私にも治療行為の心得があるので
　いざという時には頼ってもいいですからね」

代償が重すぎる。

「精進中を理由に息の根止められちゃあ浮かばれませんな」
「せめて麻酔を多く施すが善いでしょう」
「ふわふわ～て逝ける筈です」

「麻酔ァ上手いこと調整すっと中々チルいですからネ」

濫用者の意見だ！

「真艫なセンセばっかで涙が出ちゃうナ〜？」

「まともな医療をやろうにもその為の物やそれを維持する事がまず大変だもんね、この時代ね」

「あ、私、上月（こうづき） アリサと申します。
　ご用命の際はこの名前と提供してもいい臓器の提示を……」

そういえば、先ほど自己紹介をしあったりしてたな、と
名乗りを入れてみるのだ。

「皆自己紹介して、真面目チャンねェ」
「臓器提供意思表示のカードでも配ったラ？酔っぱらってるヤツは読まずにサインすっからオススメ」

「皆……応援ありがとう……」

？

「んネ」

チルいに頷く。尤も、上手な手術と無縁な気配ございますが。
それならそれで薬漬けのが患者さん恐らく幸福だ。

「臓器って何があるんだっけ」
「心臓と～、胃？ 尻子玉も臓器？」

「まァここメトロなら患者さん練習道具も山ほど転がってるよな」
無償とか言う片道切符に釣られる奴も多いのだろう。

応援した記憶、なさ過ぎる。
こめかみを指で数度小突いた。
いややっぱ応援した記憶ないな。釣られ記憶喪失かしら。

「そうそう。苦しまずに一瞬で終わるし
　まともで価値ある医療ですよ。
　それを先生は無償で提供してくださっているのです」

「ちなみに麻酔も扱っています。
　応援ありがとうございます皆様」

「それじゃ騙し取ったみたいになるじゃないですか、
　もう少し同意が取れてる感を出さないと後が怖くて……」

「尻子玉って実在する臓器だったンだ……」

知らなかったそんなの……。

「今日のところは引き上げるか……」
「ラセン君、帰ろう…（と言っておかないといけない気がした）」

「まあしくじっても文句言う奴ぁ居ませんからね！」
生存バイアス

「尻子玉は要らないかも……」

「禁断症状で死にたくなったラ頼るネ……」

そんな日は来ないのだが。大体いつもシャブ漬けだから。

「騙し取っても死人にゃ口も手もネ〜と思いますけどネ」

騙される阿呆が悪いので。大体は。

「…やっぱり、幸福。広めないと」
使命感

「曾祖父の友人の兄の妻の従兄の後輩が尻子玉を抜かれて死んだって話を聞いたことがあるから、たぶん実在する」

「いつぞやにも言うたけど、うちは名前忘れてもうたわ。〝幽霊〟とか〝亡霊〟とでも呼べばええ。はあ。……酒とか退屈なあれそれならあるけどなあ」
と言って、また酒を飲みほして。今は様々な意味で何もやる気はないと言いたげに。

「こんな時間でもウロチョロしてるもんだな…………」

「文句の出ない素晴らしい医療って奴か。ダハハハ」
ウケた。さっき拾った酒も空き、いい具合に回っているらしい。

「おしまいになってる方にも
　意外な所に横の繋がりがあったりして、お礼参りとか……」

毎日をそれに怯えて生きているが、
生き方自体を改めるのは中々難しい。

「はい先生♡♡
　一緒に帰りましょう。」

うっとり幸せそうに頷いた。

「では皆様、お元気で。
　体のお悩みがございましたらいつでもご連絡を」

「下手な事をして恨みを買う事はままある話だな…」

「生きるのがつらくなったら医者先生に相談するね～」

「暇なんやろ。うちも大概やけど」

「寝ても覚めても変わらんから、一旦起きとるだけや」

「あっあっ、おやすみなさい……？」

「おやすみなさ〜い」
「"次"があったらまた〜」

「おやすみ…？」
まさしく嵐の様な出来事だった、そんな感じの顔をしながら。

「覚える顔も名前もいっぱいだ、いやはや楽しいね」

「みんな、寝れるときに寝ておかないと。
　身体がもたないよ。」

「その連絡が命取りになるとは思いますまい」
「まだ惜しいので、体の悩みは内に秘めておきます」

「ほな、うちも暫く黙っとくわ。空気と会話する趣味もあらへんしな」
人が減れば、本当に喋らなくはなるのでしょう。
ずっと起きているように見えるかもしれません。

「さァて、俺も塒に帰るわ」
「世界が終わるまで笑わせてくれよ」
今日は変な輩暇潰しが多い素晴らしい一日だった。
中年はガラクタ掻き分け、何処ぞに消えてゆく。

子供が周囲を見回している。
こんな夜中に、一同が一人二人と姿を隠し始める頃合いに。
あるいはだからこそ、でしょうか。息を潜めていたのでしょうか。
それにしては無防備な様子でした。何かを探す事くらいしか、子供にできることはありませんが。

「おや、迷子かしら」
「もしや探し人でもいらっしゃる？」

一期一会の縁にひらひらと手を振り。
立ち上がって軽く体を伸ばした。

「かるた、できた。よくもえそう。」

燃やせば良い灰に、良い業になるでしょう。たぶん。

「おーおー、こんな時間にまあ、皆お盛んだなー……お邪魔しますよっと」

「骨牌、見れば見るほど食べられそうに見えてくる。
　食べられないんだけどね。」

「……あ」
声に気が付いて、子供が顔を上げる。
日の下であればさぞ綺麗に輝いたであろう金髪はすっかり塵芥に塗れて。

「ええ。探しているんです……」
ただ短くそう答えた。

「…子供か」

珍しい訳ではないが…
子供の見回す視線にヘルメット越しに視線が交差する。

「おやおや、こんな時間にも新しい顔を見かけるものだね…
小さい子まで居るけれど、大丈夫？何か用事があるのかな？」

「新鮮な子供達だ……」

「新鮮な子供は何？」

「お、美味そうなお子様」
芝居がかった様子でぐへへと笑った。

「臓器が新鮮だし、再生力も治癒力も高いし……あ、いや。
　可愛いなって」

「なに、ガキまでいんの？
こんな場所にまで迷いこんじまってまあ運がないね」

自分も変声期前のような声をしているくせに、少女を見下すような台詞だ。

「いいカモじゃん。
嬢ちゃん、悪い事ぁ言わねえからこんな場所からは離れた方がいいぜえ？」

「でも身は小さいと思うのだけれど。」

「そうだねぇ、早く離れた方が良いのは間違いない事だよね。貴方の新鮮さに目をつけてる人も居るし…探してるって物？人？」

「骨牌と子供、どちらが美味しいのでしょうか。
　今は後者しか手持ちにありません……望みとあれば差し出すべきかしら」

ふと、首をかしげて。

「薄汚れている。随分宛もなく彷徨ったらしい」
「一応尋ねときましょう。誰を？」

迷子探しに明け暮れる母親父親兄弟姉妹エトセトラは皆目見当も付かないが。
居たとて碌に記憶しちゃないだろうが。念の為ね念の為。

「少ないけど美味いってことは」
「希少価値だね」

「その辺りは数でカバーを……あ、いや。
　小さい生物って可愛いですよね」

「親権者が居るかどうか分からない子供を採ったりしませんよぉ」

居なくてもやめてね。

暫し人の出入りやらやり取り眺めていたが、欠伸一つとともにそろそろ寝床を探すかと。
すたこらと闇に消えた。

「易々身売りなんてしちゃいけない！」
「天から賜った大事な体なんですから」

大袈裟に腕を広げて尤もらしい物言い。