『……』
直接回ってきたな、話題が。藪医者R・Dの方を横目に一瞥。
凡そは彼女の認識であっている。表立って話さぬだけ。

再びとドクを見てから首を横に振り、思案に首傾けた後冬真に近づこうとするやも。

「収奪されても、同じこと言えるのかな」

「METROには明日行こうと思ってるよ～」

「熊や」

「きゃ～すご～い似合う～♡(猫撫で声)」
「いや冷静に見てもすごいね……被り物かぁ」

ところで熊が居るな。視界の邪魔じゃないんだろうか。
ねずみもねこもうさぎも見てきたからあまり過度の反応はないが。

「熊人や熊そのものは曙光にはいることはいるが、
　流石に被り物をして嬉々として繰り出してくる奴はなかなか見ないな」

「まあ独自性という面じゃ、
　かなりイカしてるといえなくもない」
「俺はこのハンサムが隠れるから真似できんが」

「おいこら、おい。
　言わない事でいちいち強調するんじゃないよ」

まったく。と片眉を持ち上げる。気安い応酬だ。

「しかも、くっそ、そうさりげなく助力してくれようとすっから
　伊達男に賛同するしかなくなるじゃねェか！ありがとな！」

「チュエとタイミングが重なるなら、実際、心強いよな。
　俺はあーんまり歓迎されてないからさ。はは」

『メトロの鼠たちが縮みあがりそうだ。』

｢お、クマ｣

「アンタもMETRO行くんか…
いや…熊やから大丈…ほんまか…？」

熊を凝視。

「熊、だなァ……」

「イイコの熊ちゃんならちびっこ連中が歓びそうか～？」

｢おれも被り物しよっかな 蛇の…｣
話題になれば顧客も増えるはず…

ところで、えっ、いま熊そのものって言ったか？
傍らの臨時職員を二度見。

「熊被る度胸あるなら大丈夫でしょ」
「つか蚤の市で買えんだね」

「被り物売ってる店あったんや…」
「んで、買う人もおったんか…」

「永遠に同じものを手元に置いておくことはある種の安寧かもしれないけれど」「僕は根っからの商人だ」
同じ場所に腰を下ろし続けることは肌に合わない。
「人は」「水物…」

「くま？」
「あぁ、あの被り物首が辛そうなやつがくまなのか」

「これはお嬢様の勘やけど。
蛇の被り物商人はフツーに怖いで。
熊の方がまだ人気出るで」

「METROでも目立つな、アレは」

「おーおーどういたしまして、
　俺は・デキる男なんでね！」

売り言葉に買い言葉。打ち解けてきた証左である。

「俺もそんなに歓迎されてなかったけどな……
　どこだって余所者を余所者として扱うもんだから、仕方ないとは思うわ」

「コミュニケーションが行き届かなくて、
　助けられるもん助けられないのは悲しいし……
　人口説くのは、まあ、任せといてくださいよ」

「リアルな被り物じゃないからそんなに驚かれるとは思わなかった～」

ははっと笑う。

「METROどころか……どこでも目立ちそうだよね、熊の方」

「濁って……腐っていく」

雅尾に近づかれて眉根を寄せる。
そういえば黒帽子汐とも意思疎通してたってことは
少なくとも喋れるんだろうな。

「……舌切り取られてて断面見せられないから面付けてたりすんのかなって」

いるよ、熊そのもの。
と見返して。…………

「……あ、店としては闘技の見せ物とか、
　あるいは食用としてだからな？」

補足された。

｢ケッ！蛇ちゃんは可愛くねえってのかよ〜…｣
被り物が無くても蛇っぽい特徴はいくつかある…

「ここに居つかれると」
「犬と鼠と熊でマスコットが揃っちまうが」

「この資源のない世界で」
「くまの被り物を求める奴がいるという驚きだけどね」

「そっかそっか。
　ま。診てほしいトコあったら、遠慮せずにな。
　転んでずるむけたとかでも構わないぞォ」

雅尾の意思表示に頷いた。
こうして肝心なことは伝えてくれるので、やっぱり鷹揚に笑うだけだ。

骨牌と紙片を火にくべかけて、止まる。
近辺の人々を見遣る。

「………………んん、」

顔をしかめる。葛藤。

「ファンシーな分余計気になるというか…目をひきますよ」
「まあリアルなクマの被り物もかなり目をひくとは思うんですけど」

「一見意味の分からんモンもたまにゃ必要だろ。
　その被りモンが必要かどうかは知らないけどさ」

「まア可愛いからいいと思う　あたしは」

「人は水物」「角度によって光り方が違う」「濁った水も」「斜めから見れば七色に光る物だ」
「ある面では、清水よりも美しい」

「リアルな熊やったら私多分気絶するわ」

「…………欲しいな」「いずれ腐り果てるとしても」

「この街の空気、砂っぽいでしょ～。砂が目に入るのが嫌だから被っているだけだよ～」
「あ、自己紹介がまだだったね～。お兄さんの名は熊熊（シィォンシィォン）。よろしくね～」

「くまくまだ……」

『本物の熊じゃなくてよかったね。本物だったら真っ先に食われていたから。』
足が悪いので逃げれないだろう、と。

「熊熊て、まんまかい」
「熊人(シィオンレン)の方が正しい気もするが……」

滅びかけの世界とはいえ、
まだまだ広さを感じるのであった。

「クマクマ……失礼。熊熊シィォンシィォンか、よろしくね」

「あー、防塵マスクもピンキリだけどまあまあ高いもんね。
　それでもありっちゃありか」

「見た目も名前も覚えやすくて助かる～…」

「くまくまなんですか」
「わかりやすいですね」

冬真の、分かりやすく眉根寄せる様子に喉を鳴らす。
しかし逃げず留まるなら更に顔を寄せていくんだろうな。

ドクには軽く手を振っておいた。
何かあれば頼むつもり。一つ考えている事はある。
幼子では無いから、転んでって事は無いだろうな。

「熊熊っていうんか。よろしくな熊ちゃん……」

「まーなァ……知らん奴は知らん奴でしかねェし。
　……最後まで診る気がねェなら手を出すなとも言われちまったなア」

つまりそれは何かに見放された経験を、或いは実感を伴う者が多いということだ。
まだ、どいつもこいつも、子供ばっかりなのにな。
内心やり切れない想いが募り溜息に変わりそうだ。

「じゃあ定期的に通うから、診せたくなったらぜってぇ診せろよと
　啖呵切るしか出来なかったから、切ってきてやったけどな。はははーだ！」

「…なんかこォ…頭いー感じのうまいコミュニケーションはほんと
　チュエに任せた！頼む！頼りにしてる……！」

ド直球馬鹿に出来ないやり方を臨時職員に託したい…！

「ほへー、なんか緑がいっぱいあるー。
　こんばんはー、種持ってきましたー！
　どこに持ってけばいいですこれ？」

ボロボロになって最低限しか隠せていない服を着た曙光の奉仕員がやってきた。
秩序の砦たるこの場にはふさわしくないことこのうえないかもしれない。

「かっこいい名前だなァ。
　心の中でくま太郎あたりだと呼び名予想してたが。外れたか」

それはそう。

「くまくま……覚えやすくて良いな」

本人の自己紹介は聴き取れなかったので、他の人の呼び方を参考にした。

「くまくまー。」

「今日は色々な人が来るね。まぁ吾も同類だから何も言えないが……」
「種子はあちらで焼却処分すると良いよ。良く灰が降り落ちてくれるから」

ぼろ切れだな。気に留めることもなかった。

「熊吉〜」

「いしとかなぐ。よくもえないけど、もやしちゃお。」

持ち越して他所のエリアで焼却する、という考えは無い様だ。
ひとり、焼却作業に励んでいる。

「熊鍋〜」

「いいんじゃね？そういうのは意地の張り合いだから、
　頑固でちょっとぐらい抜けてる方がいいと思うぜ」
「……ああ、ドクの兄さんの頭がどうこうってわけじゃなくて」

わざとらしく付け足す。にしても頭いー感じ、か。
そんな風に言われることもなかなかないな。

「ま、そ。医術って、どれだけ"正し"かろうと、
　それを呑み込めない奴にとっては他の薬があるモンです」

「気づけてるアンタがまだ医者として、色々なとこに関わろうとしてる。
　それって、いろんな奴にとって幸運なことだと思うぜ」

気持ちの籠った言いぐさ。曙光目線というより、それこそ実感の伴うような。

「頼られちまったらまあ……まあ、やるかあ……」
自分の手伝いに関してはやっぱりモチベが微妙であった。

「ありがとうございまーす！
　ここはいきなり追っかけてくる人いないんですねー。
　あー、でっかいぬいぐるみ？だー。かーわーいーいー！」

｢熊さんは随分と人気だこと…
蛇ちゃんもチヤホヤしてほしいな〜｣
冗談交じり。

「蛇の被り物を探すしかないんじゃないか」

「おー…？って。
　だいじょうぶかァ？ちびっこ。
　服がぼろぼろじゃねーか…！」

種子云々よりも真っ先に目についたことに気を取られる。

「蛇鍋〜」

「名前、覚えやすくていいでしょう～。熊の被り物に合わせてお兄さん自身が付けたんだ～」
「じゃあ、そろそろ塵芥拾いに戻るね～。またね～」
「それと、相克したい人はお兄さんを選んでくれると嬉しいな～」

そう言って男は手をひらひらと振りながら路地裏に消えた。

「早速あだ名がつけられて…え、熊鍋？」
それはあだ名なんだろうか

「蛇鍋…？」
あんまおいしくなさそうだな…

「だいじょうぶでーす！マキはつよつよなので！
　これはですねー、さっきメトロに行ってきて、
　気づいたらこうなってました。あとおやつとかぜんぶなくなってました」

スられたむしられたといいます。スキだらけだったので。

パチ。
目を覚ましたら熊がいた。ワァ……。

「サーカス？？？」

サーカスではないらしい。

「ここは秩序の勢力が集う場所だからね、追いかけて来る者など居ないよ」
「きゃ～蛇鍋ちゃんカッコいい～♡(猫撫で声)」

「あ、住民か……寝てる間にパレードでもしてンのかと……」

パレードしそうなのは曙光だけど。

「ふぁぁ…」
「ねみ」
使用済カルタは捨て去った。
「案の定。METROよりはこっちが人少ねえかね」
「もー一回雨来たりしねえか」

｢早速鍋にされてんなぁ…
美味いのか？食いたくないし食われたくもないが｣

｢俺も被り物を買おうと思ったんだが
怖いって言われて…｣

「おうまたな〜熊治郎〜」
「次は驚かんように気をつけるで」
「相克かぁ、やったことないんよなぁ…」

「あ。メトロにいたカモ」
「こっち来てたのか」
酷い言い草だった。

「多いんじゃないか？　殆ど曙光で見た顔だ」

「曙の光のなかでも、かなりほの暗い底の奴が来たか……」
「いくら業が深かろうと、
　頭の出来で簡単に"使われる"側に回るのは」
「黄金の蟲どもの悪癖とも言えよう」

求めているのは一夜の恋人だ。ペットや道具ではない。
居所の悪い気持ちを抱えながら、奉仕員を見ていた。

そう言うが早いか、商人に対して素早く仕掛けたConflict──

「うさぎなら可愛いと思うで！」
「もしくは梟やな」

「誰からも好かれるものなど存在しない」
「怖いといったものはNot for youで切り捨てておけばいい」
　特に根拠もないいい加減な説得だ。

「…対価はもう支払われている」
ぱす、とほこりのついた手をはたいた。

「カモ？？？どこです？スキを見せたらあぶないんですよ？」

おめえだよ。

「種おさめにきたんですよー。あの緑になるんですかねえ種？」

「そのグラサンをハート型にするくらいなら
　怖がられることもねエと思うわ」

* あるかどうかだが。
* やってきた者の衣服を見れば、手荷物を覗き。

「……着替えは持ってきてないんだよな」

* 舌打ち。

「梟は確かに可愛いかも。大衆向けかは分からないけどさ」

「…………そんな気は、した」

綺麗にいなされてしまったな。

「そこで保険なんてかけるから、私は駄目なのね」

｢カッコ良さと親しみやすさを両立してえ…｣
わがまま。
ヒーローにはなれそうもないし…

ほへー、とまぬけづらをさらしている。
使われてる方がマシなんじゃないかなこの子と思えてしまうかもしれない。

黄塵に塗れた手を払った。
払ってもまた着くだけなんだけど。

「勝ち負け、そこに意義はない」「取引に勝敗はないからだ」
「そこにあるのは失意と満足」「それだけさ」

「いやいやいや。大丈夫に見えねェよなにもかも……！
　せめて雨降ってる真っ最中は、これ被っとけ！
　見てるだけで周りが風邪ひくわ…！！」

ぎゃんぎゃん口煩く言いながら
あっけらかんと明るい少女──マキエに脱いだ白衣を被せようとする。
毎日洗って清潔にしてるものだから臭いとかはないはずだ。きっと。

「中途半端に梟を使うとそれはそれで目をつけられそうですけど…」
お客じゃない人に

「相克か。私もまだしたことないな」

「スキだらけをサンキューな♡」
カモッたし、おこぼれは頂いた。
にぃーといい笑顔だった。

「…………そのようね」「あなたの勝ちよ、商人さん」
「正真正銘、無価値な戦いになってしまったけれど」

METROで毟られて来た奴は居るし、顔見知り同士が勝負してるし。
なんだか遅い昼寝をしてるうちにドタバタしたらしい。

あくびを一つ。荷台の上でぐーっと伸びをした。

「なんや怖そうな顔して意外と可愛いこと考えてるんやな…。
しゃーないな、このラルルお嬢様がアンタの商売上手く行くように
協力したろうか！」

「あー自ら何か欲してもない、
　曙光の奴に対して施すのはやめといた方がいいぜ」

「見返りがないならまだマシ。また奪われてるならその次善。
　最悪は一層状況が悪くなることだから」
「プレゼントするぐらいならもっといい接し方が……」
「あるかはわからないね」

「うわー、マキエちゃんいる」
「こんなところにまで出張サービスしたら流石に捕まるぞ」

「ァ〜。そういやあの毟られお嬢ちゃんァ曙光で顔見たナ〜」

曙光の身内への評価、辛辣〜〜。

「取引に勝敗はないように」「そこに意義はないが」「投じた時間には価値があるものだ」「無価値なものではないさ」

「あ！これ知ってます！オイシャさんの服！
　ケンキューインさんの服？どっちか！
　どっちでもちくちく注射ちくちくとかごっくん服薬とか！
　マキに着せますか？マキを使いますかー？
　ごりようだいかんげいでーす！」

「うぉ、あの子大丈夫か。
お医者さん見てくれてるなら安心やけど…」