「もう遅いぜ　メモしておくからよ　えーとメモ帳は何処だ……ねえな……」
「やめろォーッ　最終的には監視されてようが構わず暴れるからよォーッ」

「お兄さん、鼻も馬鹿なんだ」
「かわいそ、同情してあげる」

「最終的に拘束されそうだな……」

『なら、なんかいい感じに。いじるか。いじれるか？』
さっきいじってったし行けるだろうか。
じり、っと近づく。

「ここのトップがドブの見本市だろうが、目でも腐ってんのか？お慕いしてる医者にでも診てもらえ。」

「ギャギャーーーッ！
　ギィーーーッ！ギュギョギョギュギュギュ」
威嚇している。

「ちっ、また金具だよ…」

｢おーこわこわ…｣

どこからか逃げるみたいに走ってきた。
どうせこの辺にも長居はしないだろうけど。

「…それ、いいかもね」
「役に立つこともあるんだ、お兄さん」

「そう、そっか」
「診察なら、会いに行けるのか…」

「ついでに頭も診てもらえ。」

「梟首会よりも余程」

治安が悪いようで。
タイミングの問題かもしれないが。

現状此処に居る人間のことを手帳に書き留め、息を吐いた。

「それって僕が、馬鹿ってこと？」

「ご想像にお任せします。」

「じゃ、そいついい感じにしといてね！
　アタシいったん逃げるから！」
次会ったときには無事に忘れられてますように！すたこら。

「今日も平和だなぁ……」

「それを言う時って、うまい言葉が出ない時なんだよね」
「無理しなくていいよ、笑わないから」

「覚えたからな……覚えたからな……覚えたからな……
　覚えたからな……覚えたからな……覚えたからな…………」
背に向けてブツブツ呟いていた。こわい。

『ほら、怖くない、怖くない。』
じりり。

「覚えて、どうするんだろ」
「負けた相手に、勝つつもりなのかな」

「ウー……クーン……（一旦落ち着く）」
「（ように見せかけて）バウバウバウアアガッボオオオオ！！！
　ギュビギュウブブグウウウウウッ！ジャアアアアアアアアア」

「どうした？それしか言えないほどの知能しかありませんっていう自己紹介か？鏡なら持ち合わせてないんだ、すまない。」

「ここってMETROだっけ……」

美味いもん食ったり、適当な奴殴ったりするつもりで足を延ばしたはずなのにな……。
寝て起きたらMETROの底辺の象徴、みたいな奴がぶつぶつ言っていた。俺は移動すら満足に出来なかったのかもしれない。
かなしい。

「どーもそいつからは"臭う"んだよな…まぁ気のせいかも知れんが。」

「オレは別に勝ちたいわけじゃないんだよ。
　だから嫌がらせをする………………」

『無理だ。近づけん。』
そう書いてるが近づいている。

「自己紹介なら、昨日したけど」
「忘れたんなら、そう言いなよ」
「お兄さんじゃなくて、おじいちゃんだったのかな」

「ここ、METROじゃないから」
「一緒にしないで、失礼だよ」

「な？この口の悪さ曙光の綺羅びやかさとは真逆だろ？」

「オイ！メトロのことはバカにしてもいい、だがオレのことはバカにするな！」
「グガアアアアアアアアアブガアアアアア（メチャクチャに腕を振り回してる。近付くと、当たっちゃうよ。）」

『これ以上は本当に無理。誰も止めれない…。』
諦めた。

「別に僕、口悪くないし……」

黙った

「お兄さんは、口臭いけどね」

黙れなかった

「あはは、今日は一層と治安が悪いですねぇ。
終末間近って感じがします」
「限界になったときその人の本性が出る、
とか言いますよね。迷信でしょうけど」

「そうだよな、METROじゃねぇよな……寝起きに見るにはちょっとショック過ぎたからな、ごめんな……」
「いやお前はバカだろ、丁度良いからちょっと寄越せよ、持ってんだろ」

聞こえてくる言葉に思わず謝ってしまった、でもよかった、ここは目当ての場所だった。
身なりの綺麗な奴を小突いたら面倒な事になりそうだが、別にこいつならいいか……。
軽い気持ちで腕を振り回す終わった世界が産んだ化け物に蹴りを入れようとした、怖くない、怖くないからな……。

「近づいてないのに臭いってわかるのすげーよな、元々鼻の穴に汚物でも詰まってんじゃねぇのか不安になってきたぜ俺。」

「なんか、すごく治安が悪くなってきたな」

隅っこで座っている

んしょ、と座り直す。

「地下から沢山来てるから、治安悪いね」
「困るんだよな、湧いて出ちゃってさ」

「オイ！人を蹴っちゃいけないんだぞ、知らねえのか！？
　そんな事も知らねェなら……オレが殴ってやる！！！！
　バ　ア　ア　ア　ア　ア　ア　ア　ア　ア　ア　ア　！」

ブンブン回転と蹴りが今、衝突する──

「すげーよな、あそこまで他責にできるのある意味才能だぜ。」

「自分の匂いに、無沈着な人って」
「モテないんだよ、知ってた？」

「METROは特段治安が悪いですからねぇ。
ここの空気に慣れていたら尚のことそう感じるでしょう」
「そこの方々がこぞって訪れたとなればこうもなりますよ」

笑ったまま、止めに入る素振りはない。

「こんな終末で誰に騙されるかも分からん所で色恋に夢中になれるその図太さだけは尊敬の極みだよ。」

「まぁ、人が沢山来るのは良い事だとは思うけど……」

隅っこで座ったまま喧騒を眺めてる、平和主義

「あのさ、勘違い」

「別に、色恋じゃないし」
「夢中でも、ないから」

「はいはい、そうですか。」

心底どうでも良さげな反応だった。

「んじゃくだらないことに時間使いすぎたし美味い飯でも探すかね、梟の飯はなんかこう、あんまな。」

「知らなかった、そんなの……」
「へぶっ！？……しかたねぇな、なんか美味いもん食おうと思ってたけど……やるよ、いてぇ……」
なんとかマンですら知っていることを俺は知らなかったのか……普通にショックで茫然としていた。
していたら、ぶんぶんと振るわれた拳が頬に当たった、脳が揺れた。べしょっ、と集めていた塵芥のように吹っ飛んで転がった後、起き上がって称える様に業を押し付けた。
あれ、お前って業いらないんだっけ。ごめん、でもお前の勝ちだからさ……。頬が痛い、いや、頬って言うか全身が痛い……。

座りつつ、暴れている知り合いを眺めている。

「メトロも、梟もご飯はあんまり美味しくないんだなぁ……ここは比較的美味しい……かも」

「おや、『自分恋愛なんか興味ないっす恋愛なんて軟弱もののすることっす』、みたいなことを言ってそうな冷笑系男性がいらっしゃいますね」
「心の矮小さを誇示しているだけのその皮肉は、
例え騙されたとしてもそれに気づく自信がないことの裏返しでしょうか？」

急に横から言葉で殴りつけた。

「ばいばい、おじいちゃん」

「なんで今日みんなこんなに血気盛んなの……」

「偉い長ったらしい内容過ぎて笑いそうになったぞ。」

「したいやつはすればいい、それだけの話だろ?良い終末を迎えるためにな。」

「へッ……また一つ賢くなったな。
　おめでとう、今日はお前のニューバースデーだ……」

ギュルルルル……ピタ（腕停止）

「フウ……これでオレは……　アレ？なんか……
　業積もってない？　畜生！　また積もっちまったァァーーッ　どうして……！」

「まーた勝ってるよ。」

「誕生日を祝われたのは初めてかもしれねぇな、お前馬鹿だけど良い奴なんだな……ん？」
「すげぇな曙光……METROより治安悪いじゃねぇか……」

勝者の権利として業を押し付けられて喚くバカを他所に立ち上がろうとしたら、なんか床を舐めて弱った奴には更に蹴りを入れに来るのが曙光の流儀らしい。
一文無しになる未来が待っている気がするが、売られた喧嘩を買わない奴はいねえもんな……もぞ、と立ち上がった。

『恋愛。』
んー、と考える。

『してみたいと言えばほんとにはなるかもなぁ。』
そう書いてビリッと破り捨てた。

「いつもはこんな治安悪くないんだよ、なんか今日だけすごい悪いんだよ。」

「ま、METRO生まれの俺に相手なんぞできないという自覚もあるしね。」

「METROの人がいるから、治安が悪くなるんだよ」

「んー、治安のいい話でもする？」
「好きな…、店とか？」

「あはは、便利なものですよ。
教養のある人とはなんの支障もなく話が通じますし、
ない人はただ、長たらしい話だと笑いますから」

「したければすればいい、ええその通り。
それを分かっているのに、自分よりも年若い相手にマウントをとる為だけに
その場限りの見栄を張る。
大人げなくて笑ってしまいますね」

「好きな店の話か……僕が行ったことある店……」

少し考える素振りをした後に顔を真っ赤にして壁に自分の頭を叩きつけている

「そしてマウントも取ってない、好きにすればいいだけだろ？変に突っかかってくるんじゃないよ。」

「夜はもう少し落ち着いていましたね」

METROの情報も手に入り、手帳への記入が増える。
答え合わせはまた後日になるだろうな。

「……急に頭ぶつけてるけどあれは何があったん？」

壁に頭を叩きつける姿に対抗し、壁に頭を叩きつけ始めた。

「ちくしょう!連鎖しやがった！！」

「げ」

「はぁ……はぁ……いや、僕の人生で一番の黒歴史を思い出してしまったから記憶を消そうとしてただけ……

そこの危ない人はなんで叩きつけてるの？」

「好きにすればいいと言う割には、
あなたも随分彼女に随分と突っかかってますけどねぇ」
「鏡でも見てみます？ ああ、METROにはそうそうありませんでしたね」

「曙光じゃ壁に頭叩き付けるのが流行ってるって帰ったら教えてやんねぇとな……」
曙光の賢い人間達はやっぱり違うな……。

「壁に頭を叩きつけることに、理由なんていらないだろ。少年。
　恥ずかしいことも乗り越えて、強くなりな……」

「お、ジョンソンじゃん。紹介するぜ、アイツはジェット。
　オレの……ま……腐れ縁って所かな。」

「黒歴史、ってなんだろ」
「店選びを、間違えたとか？」

「叩きつけてる片方はそっちの方じゃないですか。
折半してくださいよ、折半」

「うちの子じゃないんであの子…」

「流行ってねぇよ……！
いやそもそも理由なしに頭叩きつけんわ。

黒歴史についてはノーコメント」

頭を叩きつける奇行が流行りか？
当然記録された。

『もう剣は救えない。私に救えないんだ。』
傍観。

「ま、変な店も多いから」
「大事なもの、奪われてないならよかったね」

「美味い飯探して変なもの捕まえたら最悪だろうな。」

「……いや、大事なものは奪われたんだが……まぁ、うん……」

「頭から包丁生えてるからってMETROの住人とは限らないだろ……昨日たまたまMETROにいただけでここがホームかもしれねぇし……」
あれ、刺さってるんだったか。生えてるんだったか、もうあまり覚えてないが……。

「おっと、これはいい話になりそうだぞ。」

「奪われたんだ、かわいそ…」
「クセにならないように、気を付けてね」

「ケチって安い店に行ったらババァが出て来たとかそういう……」
とても嫌な方向の察し方をした。

「実はオレ、この街で最初に訪れたのは此処なんだよな。
　だからここがホームだよ。みんな、仲間だぜ！死のうな。」

「一瞬だけ梟首会にいる時特有の気の狂い方かと期待したが」
「曙光でもしっかり同じくらい狂ってら」

「だから何も因縁ねーって。意味ありげな腐れ縁感出すなって」
「なんかあったのはアンタの頭の左側だろーが」

「エッチなことしたんですね──？」

踏み込んだ。

「踏み込んだーッ！？」

「ぬぅぅぅぅぅ……
そもそもぉ、そういうことするつもり無かったと言うかぁ……というかそもそも知らなかったと言うかぁ……！」

座ったまま顔を伏せて喚いている

「おめでとう、少年。
貴方はその時、大人になった」

「どこで生まれてようがガラクタの行く先はメトロで合ってるでしょ」
「ちゃんと柵付けときなよ、鼠が逃げてるぞ」

興味深くあったので、騒ぎの渦中にある人間に向けて骨牌を投げた。
いつもの記録欲だ。