ぐーっと伸びをひとつ。
溜め息。
暫しぼけっと手の中で種を転がしてから、またごみ漁りを始めた。

「あっちのピンクの兎の人もやってるから怖くないよ」

大嘘。

「うー？」

「んおっと」
「この黒い子、売りに出したら簡単に壊されてしまいます」
「一応身内の子なものですから、ご容赦いただけたらと」

にへらと砕けた微笑み浮かべ、
子兎の保護者面が割って入った。

「よくねーーーーーッッッ！！！！！！」
「でも、これしかないんです（絶望の中、悲壮な決意に染まった声色）」
塵を捏ねながら待ってる。

「……」

あれ？この人自分並みに危ないのでは？と子供は訝しんだ

少女は良く分からないがにこにこしている。
肯定しているのかもしれない。

あ、相克申し込まれてる。
この姿でやるつもりなかったんだけどな。どうしたもんかな。
とりあえず、よくわかってない風な顔は浮かべておこう。

「まあ！　ええっと……骨牌を出せばいいのかしら？」

手持ち、あるからなあ。出してみようか。

「仕方ねえ その絶望、晴らしてやんよ──(イケメンボイス)」
勝った。

｢随分とこの街に合わねえ話を出すモンだなぁ｣
捕まっても知らねえぞ？と。

「言葉だけで怪しいお店の匂いがプンプンするのですが？！
何ですか兎大好きなおじさんって……紹介されても絶対行きませんからね！

それであなたは、先ほど言った相克はするのですか？私との……」

「捕まってほしい。」

「ぐ　あ　あ　あ　あ　あ　あ゛」
敗北し、地面に頭を激突し、伏せた。

「……ああ、空が、晴れ……　ガクッ」

「みんな頑張れ頑張れー」

「刃の彼は今日も元気だねぇ……」
適当。

「あ゛あ゛あ゛（復帰）（また牌を握りしめる）」

「ぬ　が　あ　あ　あ　あ゛」
また沈んだ。

「じゃあピンクの兎さんが勝ったら何もかも諦めて貞淑に真っ当生きるよ」
「俺が勝ったら曙光の『ラビットホール♡二号店』に来てもらうことにしよう」

冗談めかして言いながら来い来い、と骨牌をちらつかせる。
今度は挑む方をやりたいんじゃないかと思って待ち。

引き分け。の末に紙幣で勝ったらしい。
まあ、相変わらずよくわからない顔はしておこう。

「……どうなったんですの？」

とか、言いながら。

「むぁぁぁ」

まねっこ。

「うわあぁぁ…………」
マジであれそうな店名で声出して呻いてる。

｢あれチクった方がいいか？｣
監視員に。

「俺の……勝ちだ！！」
「あいつどんだけ業持ってやがンだよ」
びっくりだよ。

「監視いーん」
ヤジのように呼んでいるが、ヤジのように呼んでいるから来ないことだろう。

「……今日はここで過ごすかよと思ったらなんだぁ？」

ま、あの兎ちゃん、曙光では別の男に抱っこされてたけどね。
そも、保護者面してるのも見たことあるな。
鬼ごっこの時に野次飛ばしてたお兄さんだ。

「変なお店の勧誘ダメ絶対……」

「わああああ」

沈めた。

「ほらほら、笑ってないでそろそろ出掛けますよ」
「買い出しは済ませたんですから」

大きめの紙袋脇に抱えながら、子兎の手を握る。

「まさかジョンが此処でオレより注目される存在になるとはな
　ヘヘ……私も鼻が高いってものですわ　グン（鼻が高くなる時の音）」

「ああああああ」
沈んだ。

「ただいまー、っとぉ…」

ちょっとアルコール臭い医者が帰ってきた。帰ってきたんだが。

「……ちゃんと梟首の傘下に帰ってこられてるよなァ…？」

治安の度合いに。疑問が浮かんだ。

「かんしいん……」
消え入るような声で監視員を呼んでいる。手で顔を覆いながら……

な～んか知らん顔から視線を感じるな。
知らない顔、か？古典派お嬢様の知己が居た記憶はないものの。
な～んか、痛いとこ突かれてる気もする。

「どうやら今日は相克日和みたいだぜ、頭がハッピーな連中の日みたいだ。」

「何ですかそのリスクのかかった勝負は？！
あからさまにお店の名前がいかがわしいのですが？！

ま、まあ賭けの話はともかく、相克をすると決めたのでしたら挑ませていただきます。
それでは……参ります」

「あの医者せんせー酒臭えな」
「ここァ素敵な梟の下、安寧を終末に祈るもんが集まる場所」
「多分！」

「まぁ、もうそろそろ僕はあっちに帰るんだけどさ」

もし目が合ったなら、うふふと微笑んでおこうかな。
痛い所をほじくれなくて残念だなあ。
なんせ“わたくし”は初対面なのでね。

「『ラビットホール♡二号店』は客と従業員の自主性と自由を重んじた」
「しっかりしたお店だよ」

何でこんなに言われるか分からないけど、まあ勝ったら勝ちか。
骨牌を相手の足元に放る。

「梟首会なら秩序秩序してほしいなぁ……………………」
切実。

「監視員と言えど健全な範囲内でのかるた遊びは掟（あるいはその他普遍的に表現される何らかの3所属間における決まり事に類する何かを表す単語）により止めることができないからやむなしといえる」

「らびっと　ほーる　にごうてん」

「ふしぎな　ひびき　だ」

「それは……そうだけど…………」

今日も少女は祈る。
それが己にできること。

この姿だと「メイランさんがんばれ～」も言えないのか。
なんかちょっと寂しいかも。

「ファイトですわ～！」

ま、応援くらいならできるか。頑張れ～！

こちとら酒精の虜。
体の色に輪郭捉えるので精一杯でして。
あんなお嬢様居たかしら。遡っても遡っても思い出せない。

あ、もしやナンパされてる……？都合の良い閃きをした。

「どっちが勝っても愉快なら何でもいいさ。」

「まぁ、頑張ってね……行かなくてもいいとは思うけど……」

「おにいさんもうなんも見たくない」
「……あ、雨だ。今日はここかぁ……」

「お、雨じゃん」
備えもなかったもんでまた浴びられながらやってくる。

「やっぱり秩序があるっていいね」

「がああ　ご、業が～～～
　業がァ～～～　あァ～ッ　お嬢ヤツもォ～ッ
　ああああ　降る～～～ッ　あーーー……」

｢うぐぐ……雨ってこっちかよ…
ギリギリで別のとこに行ってたらしい。｣

少女は大人しく手を引かれるんだろう。
そもそももう眠くて目を擦っているくらいだし、移動したって寝るだけだろうけど。

「んゅー」

視線は全く気づかない。
まあ、当たり前っちゃ当たり前。

「…雨だな、ふっ。予測は当たった。ノーリスクで業が高まるならそれが一番だからな。」

「曙光でちっとだけなァ」

酒については。そのように暈す。

「ああ。相克。まあ……切った張ったの喧嘩じゃねぇなら、いいかあ……」

ひどく実感の伴う声と溜息。

「業がしたたるいい男になる！！！いや元からか。世界も私を祝福してる」

「…雨」

業の恵みでもあるけれど、嫌だな。また眠れなくなる。
目下の濃い隈をがり、と爪で掻いた。

「降ってきたなァ…。
　お。チュエ、お疲れ。早かったなあ」

雨だ　ひんやりしている
あついところに丁度いい冷たさ。
そうだね…ビルの壁とか…地面とか…冷たくて気持ちいいね…

撃沈している

「おう医者、あのバカは無事に回収できたか？」

｢業がいらない奴はよこせぇ〜っ
貰ってやるううう…｣
嘆いてる。

天を仰ぐ。
心中で静かに感謝しつつ、
また祈る。

「あめ　ふった」
「めぐみ　です」

「わあ、雨ですの？」

おっと、棚から牡丹餅ってこのことかな。
降ってるのは雨だけども。
こりゃ一旦シャワー浴びる必要がありそうかな。
そんな考えは表に出さず、その場でくるくる回っていよう。

「う……負けてしまいました……」

勝負事は必ず勝者と敗者に分かれるもの。
とはいえ実際に敗北を噛みしめるとなると、落ち込んでガクッと肩を落とした。

「洗濯も介抱もなかったから直で来たさ」
「こっちのが忙しそうだし……」
撃沈してる人を見て、ゆるく手を振った。

「あ、夢斗くんも。眠れなかったらまたおいでね」
視線が爪の先を追う。こっちも大変そうだ

ストレイトの言葉にそっちを見。

「……」

年頃のお嬢さんがひんやり求めて沈没してるほうに視線を、やる。
お探しの方はこちらのようです。

「……今日も星が見えそうにないなぁ」
空を見上げながら。そもそも空の模様はずっと澱んだままな気がする。

それを見て指差してゲラ笑いしている、バカじゃねぇのと言う顔だった。

視線を送り合った相手より、今は雨に夢中。
さっさとそんな不埒な考え捨ててしまいなね。
“僕”に本当に目つけられたら、面倒なんだから。

勝色の着物、三本の角。
咥えた煙草から伸びる紫煙を引き連れる、おぼつかない足取り。

「ん、」

顔を上げる。
塵芥で汚れた手を雨で濯ぐけれど、結局またごみ漁りをするもんだから余計汚れるばかり。
舌打ちは雨音に掻き消された。

「雨初めて見たな」

雨に濡れた手をなめなめ。
……味はしない。

「さって。俺はこのまま診療所に引っ込む……」

「嬢ちゃん～～？歩けるかぁ？」

おーい。少女のかたわらしゃがみ込んで
目の前で手をひらひらさせる。

「医者せんせーも酒飲みやがんのか。意外〜」
「外回ってンなら仕事がなんかだと思ってたが」

勤務中の酒厳禁とか。そんなタイプだと想像していたが。

「お！読み当たりィ！」
「業雨サイコーー！！梟の下サイコーッ！！！」
元気にボロ儲け。

「――っあー、気持ちい」

二重の意味で。同時に二つの賭けに勝つのは久しぶりだ。

「雨のおかげで少しはのんびりできそうだ、悪くないね。」

｢今度からむやみに予想して移動するのはやめてやるううう…
多分…｣

「んじゃ俺はそこらで休むわ、おやすみさん。」

「……。」

"雨"だ。
燻る火種を湿らせる、香しい業。

唐突に最後の一本にお預けを食らえば
ちょっとばかり険しい顔で、空を見上げた。

「……なんか、雨が気持ち悪いな」
「METRO行こ……」
そう言いながら、地下の方へ。

「仕事はしてきたぜ、仕事は」
「まあ…あとは酒の肴役をな……」

ふ、と遠い目。流石にもう顔のほうに不名誉な痕は残っていない。

「おう、ストレイトの兄さんはおつかれ。おやすみ」

「大まかに縄張り3つに分けて、
　そのうちのどこかに絶対に雨が降る、と仮定すれば
　動いても動かなくても結果は変わらないからな。
　通行料払うだけバカバカしいってもんだ」

「…あぁ、チュエさん。また良いんだ…」
「まだ大丈夫…。こないだ良く寝れたから。ありがと」

小さく頭を下げる。
またぜひお世話になりに行こう。

「あっちに帰るのは……明日の朝でいいか」

「ここはここで……」
「なんか他のとことは違う顔ぶれだね」