「どこかしらから調達して、呑んでいる者はmetroには多い。
　医者としては褒められたものでない行為だが……
　こんな世の中では、酒に溺れるのもやむなしだ」

「おう。赤毛の譲さんも気を付けてな～」

「メスの準備をしておきます。
　安心してください。優しく治療しますからね」

「もしかして今盛大に門前払いされてる？
　恋の病の治療ってやってない感じですか？」

「やっぱり欲しい物が増えるばかりだ。
この世界は終わってしまう感じなのになあ。
これが金貨であれば良かったんだが」
塵芥を拾いながら。

「恋の病はどちらかというとカウンセラーの役目ではないか？」

「医療用のアルコールを持っているなら、少し分けてくれないだろうか。
　手持ちを使い切ってしまった」

「このままでは患者の酒を拝借して消毒する羽目になる」

「次会うときに包丁抜けててそれを俺に渡してくる展開じゃないこと祈っとく」

そろそろ古巣に戻ろう。

子供はゆっくりと立ち上がり、周囲を見回している。
夢を探して。声をあげる。

「この場所に、夢持つものはありますか」
声をあげてから首を傾げる、結構見知った顔多くない？

お人好し、の面々一瞥し。
当て所なく彷徨うばかりであったが、ふいと何処ぞ・・・に向けて歩き出す。
耳に挟んだ方METROにでも行こうか。

「おっと……ジョン君、帰るのかい？
　それなら私も一緒に行こうかな。
　……死出の道まで共にすると、言ってしまったからね。ハハ……」

ついてこようとしてくる。撒こう。

「恋の病なら……どこを切除すべきかな…？」

「生まれた時からもう手遅れの世界だったから、いつかモノホンの吸って見たいんだかなぁ、金があってもモノが多分ない。」

煙草擬きしか吸ったことがないのでこれが息抜きになっているのかどうかも分からないが、会話の種にはなる。

「寿司くれと言ったら銀シャリしかもらえなかったな。
メダカの寿司はちょっと…食えん」
あったみたいですね。

「恋の病ならわかりますよっ。自分もそうですから。
　嬉しい……。悩みを分かち合える仲間だったんですね」

「医療用のアルコール！
　お店にあるでしょうか」

「邪悪な精神を切除…？？？」
精神的。

「よかったな紳士のにいちゃん。
恋のオペで大成功やで」

「夢っ子ちゃんか……」

「僕に夢はないが、夢を……もう言ったねこれ」

「恋なぁ、お兄さんには無縁やね」

「夢か……ふむ……
　強いて言うなら……一人でも多くの人々を救うことかな？
　医者ですからな。ああ勿論、この救うの中には私も含まれていますとも。
　そう……こんな世界じゃ救いが必要だからなァですね……」

「クソッ総合的に見てかなりネタが割れている！
　聡明な女性二人が集まると基本的に紳士の立つ瀬がない！
　これで勝ったと思うなよ……！」

* カロン。

* ランプの揺れる音。

「ホントのホントに終末が近いなら」
「この世の医者も全員クビに…」

「いやないわ。死ぬまで医者だな」

「何だか負けたらしいな。正常紳士のヤツ」
覚え方よ。

「夢！！夢あります！
　でっけえ夢持ってます私！」

「夢なら自分の心にありったけ。
　しかし場所に由来するものかと問われれば……
　きっと答えはNO、ですね」

「あれっ紳士さん。いいんですかオペは」

「剣ちゃん……医者だったのか……」

「とりあえずお兄さんは荒事は無理やから平和に生きたいわぁ、生き残りたいんや」

「オペするとしたら刃物なしの1対1でお願いしたいかなちょっと……」

「ジャッキー君……行ってしまったのか？許せねえ……
　医者やめます」

「んじゃあ、手刀メスか」

「ちっぽけな子供にも、できることを知るために、
　あたしは、みんなの夢を聞いています。
　子供は夢を抱くもので、あたしもそうありたいので」

「もう剣ちゃんは混沌すぎて
　何から言及すればいいか不明なんですよ」

「恐ろしく速い手刀メス、お兄さんやなくてよかった。」

「私の夢はお母様とお父様に元気な姿を見せて会うことや！」

「手刀メス」

「お望みの刃物なしやな」

「ハハハ……ツッコミ苦労させてしまいますな。
　オレには一つだけツッコんでくれればいいですよ……
　そう、心臓に刃をなァァーーーッですな……」

「人間兵器の相手は想定外なんですよ」

「夢か～～～～」

「元気なのはええ事やね」

「メスがないと紳士を切除できない…
　僕は無力だ…」

「自分の夢はもちろん先生と……♡
　ああ♡♡やっぱり恥ずかしいから内緒ですっ。」

「武器がなくても先生は無敵♡人間国宝♡」

祈るポーズをしている。

「まあ元気なのが取り柄や！
この明るさでメトロを照らそうかと思ったけど
今は噂を聞いて悩み中や…」

「もう溢れ出る自我を抑えきれてないんですよ」

「紳士をなくしたら正常になるのか？」

「メトロは最初に来たが本当に暗かったからなあ」

「噂…とはなんだろうか…」

「お兄さん、荒事マジで無理やからずっとここおるんよ」

「秩序が支配し、未来の定められたこの場所にも、
　夢は芽吹くものなのですね」
ほっとしたような、にわかに穏やかな表情。

「噂を信じるより行ってみた方が良いかもしれんな」

「曙光ではなんかネズミがいたり死にたいのに暴れてる奴いたり、
賭け事とか荒事が強い奴いるって聞いたで」

「多少賑やかではありますが……悪くない所ですよ。
　今日は少々、鬼ごっこめいた騒ぎもありましたが……
　諌める方がいてくれて、無事に終わりましたしな。
　アレやっぱ許せねえ」

「オレはもうメトロには…いや行くかもしれん～～～。
好奇心がうずいてしまう」

「えぇ、怖いわぁ。」

「あ、じゃあラルルちゃん一緒にいく？
　これでも頼りになるよ私ってば」

よりによって？

「鼠の獣人は多い。強い奴は…業で動いてる死体くんかな」

「暴れてるのはそこの剣ちゃんだよ」

「あ、暴れてなどおりませんよ先生。
　ちょっと……酔っ払ったことはありましたかな。
　ですがその、誤解を招く誇張表現かと……ハハ……」

「あ！兄貴来ないなとこにおった…居たんですか」
「すみません、ついて行くのが遅れて」

なんかもう周りに混じってるな…と兄の方へ寄っていった。

「お、兄ちゃんも荒事嫌いか。
私もなんよ、迎え撃つのはやるけどな」

シュッシュと拳をふるう。

「あ、ええかもしれんな。
いざとなったら肉盾にできるかもしれん」

ひどい。

「真相が目の前にある」

「怖。っぱ用心しないとダメか―」

「メトロは仕事でまあまあ行くけど
　なーんかギラついてる奴多くてな。
　あそこでだけは死ねないわ…」

「暴れていた本人がここにいたか？」

「やっぱあんた剣ちゃんやんか！！！
でも案外話は通じるんか？？？」

「盾になったら評価が上がって、
　ロマンス一直線ってことも考えられるか。
　考える余地がある」

「話は通じる方ですよ。少々二人でお話しして頂ければそのことがすぐわかるかと。
　彼処の廃墟の辺りとか如何でしょう。大丈夫すぐ終わるからよ」

「怪しいのだ…」

「怪しくない怪しくない
　怪しくない怪しくない
　怪しくない怪しくない怪しくない怪しくない怪しくない怪しくない」

「僕も当初の診察では、剣ちゃんは頭に刺さった側の剣ちゃんが脳に達していてもう助からないから脳を切除するしかないと思っていたんだが……」

「此処では思っていたより社会性を発揮しているんだ。
　どうやら僕の見立ては甘かったらしい」

「こう露骨に怪しいと清々しいなー…」

「紳士の兄ちゃん出番出番出番」

さっそく盾にした。おい。

「ほらァ～社会性って言われてる
　医療的観点のない個人の主観的判断を行うより医者の判断を仰ごう！」

「（静かに恐怖で泣く）」

「レーちゃん！」
「来てくれてお兄ちゃんは嬉しいです」

「まア喋れてはいるしな…」

* 社会性あるな。
* 無いとは言えないくらいには。

え？ここ梟のお膝下だよな…と思わず確認した。
梟のお膝下だった。じゃああの妙な人は一体…。

「クソッ少々人目につかない廃墟のあたりでお話でもと先に言われたら私に出来ることは何もない！これでは盾として役に立たない……！」

「ラセン君、泣くな。泣いても患者の容態は良くならない」

「看護師が泣いていいのは……無能な医者にパワハラされた時だけだよ」

「様子がおかしい人はようおる」

「怪しくないと言うほど怪しいのだ。怪しさマシマシだぞ〜」

「お、兄弟なんや。いいな～～」

「いやなんでやねん！
この盾全っ然役に立たんかった！段ボールのほうがまだ役に立つで！？」

「ようおるんや」
「…まあ、世も末ではありますしね…」

「ぐすっ……先生。
　だって……頭に刺さった剣ちゃんに自我があるのかなって考えたら怖くて……。
　あーん……。」

子供は考えます。
秩序を以って現実を直視すれば、そこから夢は消えてしまうのではないかと。
そう思っていたのですが。この場の光景を目の当たりにして考えは変わるでしょうか。
少なくとも混沌としたメトロと違って、自らを脅かす存在はいないようですが。
ここにも夢を掲げ、先がない世界に希望を抱く存在はいるのでしょうか。

そして、それを知って、自分には何ができるのか。何がしたいのか。

一人で指を頬にあて、首を傾げて思いにふける。

「パワハラドクターって
　なんでどこにでも湧くんだろうな」
「命を救えるゴミ虫なんだよな…」

「そやで、自慢の弟なんよ」

「ちょっと物陰でお話しませんかは紳士の基本技だ。
　それを先に振られてはな……神妙に物陰に行くといいと思う」

「剣ちゃんに自我はあるよ。なあ剣ちゃん！……剣ちゃん？」
「ああ、オレは哀しいよ……こんなに疑われちまってよ……」
「オレを慰めてくれ……人気がなく声も届かないぐらいの廃墟で……」

「不安に駆られるのは分かる。
　万一、頭に刺さった方の剣ちゃんが本体という可能性も無くはない」

「だが、正気でいることが医者と看護師には求められるんだ…」