「気品なんて難しい言葉、よく知ってるね」
「貴族なんて、今時流行ると思ってるんだ？」

「終わるまでは生きろよー。生きてこそ意味がある」

「お、そろそろ雨の時間かと思って通りを覗いてみりゃ」

ひょい、と店の一つから男が顔を出す。
何やら剣呑な様子を、それもまたこの場所の楽しみの一つと表情を緩める。

「いいねえ、活気のあって何よりだことだ。
　こっちの喧嘩は華があっていいものだろ」

「あー。貴族とかも良いなぁ。
終末ギリなら買えたりしないかな。爵位」
なんかはじまったぞ。

「なんか偉ぶってから、飽きたら家取り壊しで行こう。これが一番派手だね」

「まあ喧嘩はどこでも見かけるよな…」

チビは物陰から観戦することにした。

「なんだかんだここも楽しいところだってのは一番の収穫だな。」

「こういうのを見れるんならたま～にメトロのが上がってきても楽しいのかもね？」

「逆に生きる気がない人は僕に資源わけてほしいな♡」

生きる気満々なのだった。

やはり、何処も同じだなと再認識するに至った

少女は雨がどうとか、貴族が何だのすら理解していなかった。
ゴミを集めてまとめて燃やしたり、売ったりする。くらい。
勿論争いだってちっとも知らない。

見えもしない。

「メトロのが上がってきたその時は」
「俺も気品を賭けてギャンブルを申し込むことを約束する」

「プリンセスになるのも楽しいで。多分」

「あ、そうそう。別にこっちは争う事は目的にしてないぜ。」

肩をすくめた

「下手に争って手持ちが減っても困るからな。どんな街かと観光に来ただけさ。」

（……。）

ちょっと肩身が狭い気がしたメトロ暮らし。

「私だけのプリンセスはいつでも歓迎しているよ」

塵芥を再開することにした…。

「むしろ誰の許可もいらない今がチャンスだな」
「このビルの一角を業で買い取って、それを領地と宣言して、勝手に名乗ればいい」
「実態と名乗りが組み合わされば、そいつはもう現実だ」

「犬だけの飼い主も応相談ですよ」

「プリンセス？それはちょっと」
大げさに肩をすくめる。

「だって待ってるのつまんないもん。狩りに行くくらいの貴族じゃなきゃね。
んで城を強奪するのだ」

「時折ここも闘技場みたいに湧くのを見ることはある。
　ま、多少のドンパチは歓迎できるところだ。
　さいわいこれだけ賑やかだから、ぶっ倒れても野ざらしにされるこたぁないしね」

「あ、ゲーム相克相手ならいま歓迎なんだけど」

「何言ってるん！」
「プリンセスも狩りに行ける時代やで！
蹴り上げてパンチや！」

シュッシュ。

「このカードのゲームは何処でも出来るんだっけ。
何処も物騒なんだねぇ、ふふふ！」

「え、やだ……パンチなんてか弱い乙女にはちょっと……。
銃口でフルスイングで行こう」

かわんねぇだろ

「…………」

無言のまま骨牌を使用し、また別の場へ移動した。

「変わらんやん！拳から鈍器になっただけやん！」

か弱くないんだよなぁ。

「じゃあ相手してもらおうかな、ゲーム相克」

「犬は動く気ありませんが」
「雨を気にするならきっと此処以外がいいでしょう」
「此処は一番の活気でしょうから」
「他のところなんて知らないですけどね」

「やーった！やりましょやりましょ」

「ぅ」

「お猿さん勝ってくださいね」
「そうしたら後で犬の取り分が増えますから」

「ギャンブル、交渉、あるいはゲーム相克………ワタクシも仕掛けられるだけ仕掛けたいものですねぇ」

「死にたがりの見物が一番人多そうに思う」

「あ？またゲーム始まるんだー。がんばれー。
勝った方がとんかつだー」

かつ丼じゃなかったっけそれ

「できる限りゲームを気軽に行えるようにしたい」
「これって帰属意識かな」

「誰が猿よ！！！」

「さて、他の方々が始まるのならそれを見ない手はない！
勝手に眺めてしまいましょう！」

「さてね」
「各々好きにすればよろしい」

「今宵は争いが多い日のようで」

「負けたからじゃあ俺は蟹かな……」

臼とか連れてこないとな……。

「ぁゆ」

「人間じゃないものが増えてくな？」

「いいんじゃない？ 『家』があるってな素敵なことだ。
　それに他はどうだか知らないが、ここでも争いは歓迎されるし。
　誰かが踊れば、他の誰かも踊りやすくなるさ」

「んふふ、アタシの勝ち！ほらちょうだいちょうだい」
業をブン捕りにかかる。ブン。

「だから誰が猿よ、茹でるわよ？！6倍くらい奪るわよ？！！」

「ぁゆ」

「よくやりましたね」
「犬も鼻が高いです」

「おぉ、おめでとう」
「負けた側は残念だったな」

蟹と臼のセットになるのかなあ。

「楽しそうだねえ」

争い、というよりは遊びを見ている感覚だった。
気軽なゲーム。いいね。

「仰せのままに……」
ブン捕られる。ブン。

「相手への投資って理由で自分を誤魔化す暇もなかったな」
「もしかして自分から勝負したいと思う相手への勝率悪いのかな？」

「僕も一枚、余らせてるんだよね」
「リッチな人となら、やってあげてもいいけど」

「おおー、面白い戦いですねぇ」

「お二方ともお疲れ様ですよ〜」

「何勝手に鼻高くしてんの、犬の癖に！」

「この場合のリッチな人ってどのくらい持ってる人なの？
とりあえず万？」

「貴族～呼ばれてるわよ～」
どこぞにいないか、貴族。

「アンデッドって意味かも」

「リッチの定義が分からないからなんとも手を出し難い。
定義に入るのならば3連続でやる事も出来ますがねぇ」

兎の方を見やる。

「もしかしてあの麗しい女性の方、犬好き？」

「ヒマなやつなら誰でも～ってな手を挙げられるけど、
　あいにく、リッチかどうかについては自信ないねえ。
　私はおおよそ店にかかりきりで、ゴミあさりも手が回らんから」

「貴族ではまだ無いんだよなぁ。
その辺に居たら気が向いたら強奪しとくけど……」
今は向いてない。ほんとに

少女はにこにこしている。

「どうだろ、あんまり考えてなかった」

「お兄さんシャルパス@id、僕に毟られた時いくら持ってたっけ？」

「この世からおさらばするときは」
「できればこれくらいのくだらない賭けで負けて去りたいな」

「ひまやでー」

手を挙げる。

「うるせえ～～～！恵まれないやつへの施しといいなさい。
　つか早く返せ！対価を！」

ぶつくさ言いながら手帳を取り出す。小綺麗なものだ。

「……確か90000ぐらいだな。うん」

「ォ。相変わらず此処ァピカピカで目が痛ェナ？」

骨牌を切符代わり。ま、ちょいとした観光。
穴蔵スラムMETROから這い出してきた大男が伸びをした。

(これは確実に定義からはずれましたねぇ)と思いながら静かに退散した…

「なるほどこちとら足元にも及ばん。はっはっは！」
「おおむね気軽に克ち合ってる人らは、六桁は抱えてるっぽいね」

「ゅー」

少女は手が空けばゴミ拾いをする。
平和的で一般的な業の稼ぎ方だ。

「大食いの兄さん来たな」

「きゅうまん」「それはすごい」

雨音はそんなには持ってないってこと。
持ってる人は持ってるんだなあ。

「そもそもやってあげてもっていうか、
　溜め込んでる側がやってあげる側なの！
　挑む側が選り好みするのはおかしいの！」

まだぶつくさいってる。器が小さい……

「ぉろ。ヤッホ〜。此方が塒かァ？」

ひらひら手を振る。
綺羅びやかな街にゃあんまり見合わないナリ。構いやしない。

「あ、あのでっかい人……。」

メトロでよく見た人だ、とか何とか。

「まあ犬はお猿さん好きですけどね」

お気に入りの〇〇。

「おう、なんだ。お前さんも上がってきたんか。」

「ははは、善哉善也よきかなよきなり。
　喧嘩のお作法についてぶちぶち言えるのも、ここだからかね。
　他じゃあ、ルール無用だなんて一蹴されちまいそうだもの」

「美味い飯屋でも探すかァ。オススメあル？」

見かけた顔があれば手を振る。通行人には露骨に避けられているが。

「またまたメトロのお上りさんですか」
「犬の鼻的には参ってしまいますね」

「…麗しい女性って誰のことか知んないけど、アタシは犬きらーい」

「やほ。此方の飯も美味いですからネ。偶にゃ食わな損ョ」

METROから巨躯が這い上がってくる目的なんざ一つだけだ。

「そんなもんか、じゃあ90000が小リッチかな」

「手頃のなので良いなら、すぐ用意するけど」
「質を軽視は、格好悪いよ？」

「大丈夫だよ、お行儀のいいメトロの人なんで」
「多分ゴミ箱を漁るときもフォークとナイフは使うと思う」
「多分ナプキンも首に巻く」

「クカカ。黄金虫連中にゃ鐵臭ェかもな！」
「やるこたゴミ漁りなンだから何処も変わりゃしね〜と思いますけどネ〜」

「ゴミ箱漁る時点でおしまいじゃね？」

「一欠片も落とさんようにお上品に食べっカラね。ゴミ箱ごと」

嫌。

「にしてももうじき日が替わりそうだってのに、ようよう人が集まるもんだ」
「それともそれも気にならないくらい、みなみな稼ぎがよいのかもしれんね」

「はい、私は待ちます。極上の子を」

カッコ悪いって言われたので容易く前言が撤回された。
そもそもの要求が最底辺なので変わらない気もするが……