「ぅーう」

「いいね。無駄よりはるかに【良くない行い】だ」
「いきるもしぬもさいごまで、きぼうをもちたいね」

「芯を持ったいい子だ、こんな終末には勿体無い……」
「……夢、ねぇ。自分語りは趣味じゃないんだけど……どうしようかな。」

｢何もしねェで終わるなら今死んでも同じだしなァ
だッたらやりたいことだの目指したいモンだのに向かってる方がよっぽど建設的だね｣

「喉に引っかかるくらいなら、酒を一杯奢ってやろうか」
「酒は潤滑油だ。滑りも良くなるだろうさ」

「自分らしさは大切です。
　押し付けられた価値観に縋って、
　曖昧に他人の夢を探していたら、叱られてしまいましたから」

「語っちまいな、夢。」
「俺は夢については大好きだ。私は...【始まりに希望を託す少年】の思いをずっと考えてるだけだからね...」

｢どーせそのうちみんなおッ死ぬんだ、
恥なんかかいてもかかなくても同じダロ｣

「おさけの次は夢の話？」
金具を集めて満足気。

「皆のも聞きたいね、折角だし。」

「おや、おはよう。」

「……もしかして、私の夢を語る流れになってる？」
ちょっと嫌そう。それでも強請れば語るだろう。

「あぁ、おはよう。
ちょっと頭は痛いけどある程度は酔いが抜けたよ」

「夢はよくわからないから聞きたいな。ここに投げ出されたばかりでさ」

「...語るまでもないけど、私は軽く。」
「俺の夢はいつか...赦されること」

「【満足した人生】を送ってるだとじぶんは思ってるけど...死ぬまで、もし死ねなかったら何もかもが全てが終わるまで、罪を償いたい。」

「明るい夢ではないかもしれない、でも私にとって、これは孤独な唯一の【絶望】なんだ。」

辺りを探って一先ず必要そうなものを確保
「終末世界ねえ、明日死ぬとわかっていても人はリンゴの木を植えるだろう…てのは誰のセリフだったかな。まあ俺の場合なら、リンゴじゃなくって博打だろうがな」

「どこに行ってもやる事が変わらねェってな、助かります」
「此処は業さえありゃあ何でも、て具合か」

塵塗れの手をぱたぱたとはたき、独り言つ。
高層ビルを見上げる。
ものを知らなければ、並ぶ娯楽の数々も
その善し悪しもわからないものだ。

「夢の話ですか。聞いたことない話だ」
「是非とも聞きたいモンですね」

「夢、……
皆様が愉しく終われることが1番だと思っていますが……
わたくし自身の，と言われると困ってしまいます」

「ぷー」

もう一羽の鳩を視界に収めた。
あなたも此処に来たんですね。

「大きな問題はなかったみたいで良かったよ。」

一時期はどうしたものかと思ったけれど。

「それにしても夢……か。」

「こないだの相克の。どォも」

鳩です。どうも。
視線を感じればそんな言葉を返す。
ポッポと鳴きはしませんが。

「夢、ね。みんなに最後まで生きてもらうことよ」

「じゃあ……もう、叶わない夢だけどね。」
「妹と、私の友人の夢を叶えたかった。それが私の夢かな。」
携えた日本刀を撫でながら。恐らくどちらの遺品なのだろう。

「ふう」

肩を鳴らして男がエントリーだ。
すっかり這い蹲る事も無くなった。代わりに誰かを探す仕草が増えたが。

「贖罪の夢。自分がそうしたいと思うことが大切……。
　『生まれてきて良かった』と思えるような夢が、あたしの目指す夢なのですが。
　不思議な形の夢ですね……」
目先の快楽や今日を生きる事とも異なる、不思議な夢。
興味深そうに頷きました。

「私はもう言った。皆々が言うかはそれぞれの自由だ」

どすっと椅子に座り込んで、パイプを布でごしごしと磨き始める。

「今日は夢の話ですか」

「私は……もう、叶っていますから」

歪な夢。

人々が口々に“夢”という言葉を呟いてる。
今この光景が夢みたいだな、なんて思いながら。
なあんにも聞いてないような顔で、耳を傾けていた。

「いろいろあるね。夢……やりたいこと？うーん……」
ちらり。一口に含んだだけの酒瓶を見る。
「わたしは大人になりたいかな。大人はおさけがおいしいんでしょ？」

「夢ってな、他人本意なモンなのかと思いました」
「が、そうでもないらしい」

赦されたい。愉しく終われる皆。
最後まで生きられる皆。
妹と友人の夢。
どれも他人が主であって、自分は従だ。

「『生まれてきて良かった』と思いたい。
　俺もそんなモンかもしれませんね」

「おいしいお酒はおいしい」
まずいお酒はまずい。

｢謙虚なモンだよなア。
つっても、夢って言うくらい簡単じゃネーんだろうが｣

「じゃあおいしいお酒が飲みたい」
この少女の口にアルコールが合うのだろうか。

「夢は目標とは違うものだからね、基本的には手の届かないものだ。」
「だから縋らないと叶わないものだってある。機械や酒、薬……ヒトだってその手段の一つさ。」

「夢、ねえ」

さて、そんなものは持ち合わせがない。

「どうにせよ」
「アァ、いや。誰ぞが抱く分には構わんが」

己が抱く気にはならんだけ。
どうにも虚しいばかりになりそうで。

　タバコの端を指先で叩いて火を点ける。
　夢を語るよりも口は煙を求めていた。

「人の為に生きるのは、難しいですね。
　あたしも、家族はいなくなってしまいました。
　あたしの為に、めいっぱい、希望も愛情も注いでくれたはずなのですが。
　誰かの為に生きるなら、小さな子供にできることを見つけないと」

「ここで業おかねをたくさん払えば飲めるかもね～」
ケチると消毒用エタノールとか出されそう。

鳩には会釈を返し、人々の夢を書き留める作業に戻った。

「消毒用アルコールならまだしも、工業用アルコールなんて出された日にぁ最悪だな。
　目が潰れっちまう」

「誰かのためかぁ……難しいよな。
僕らが誰かのために出来ることなんて何があるんだろうな」

路地の片隅を通りがかる。語るような夢なぞ、どっかで失くしちまったから。吐き出す言葉もなく、ぷかぷかと煙を燻らせている。

少女は男七竃に抱き上げられて、うとうとと船を漕いでいた。

「誰かの為、ね」
「本当に誰かの為なのか」
「誰かの為に何かをしたい自分の為なのか」

前者なんて、とんと見かけたことはないが。

「見誤らんように、どうぞ」

「METROだとたぶんそういうのも出てくる」
地下鉄民に対する熱い偏見。

「そっか。じゃあ沢山”落ちてる”もの、拾わ奪わなきゃ」

「業おかねがあればもっと沢山のもの、拾えるのかな」

（じっと、一人の小娘のそばから離れず眺めていた）

船を漕いでいる少女をあやすように揺らしては、撫でている。
幾ら皮肉めいたことを口にしようが、絵面はただの子守をしている男だ。
様にならんね。

「……今日は良い夢が見られるモノでも売ってるのかな」

ゴキゲンな話題だね、と独り言をこぼして
各々が自由に振る舞うように、此れもそうした。

｢ハハ｣

夢、夢、夢、お綺麗な話だ。
なに、馬鹿にはしていない。曙光の作るネオンの下卑た光よりも黄塵越しに見る汚い太陽の光よりも余っ程まだ真っ当に見える。
そんな眩い話題から背を向けるように、欠伸零して別の所へと、そっと。
なんせ手は芥まみれだ！

「ふう。やはりこの街は少々……
社会的規範から外れるお店が多いようですね」

半日ほど歓楽街を見て回り、元の場所へ戻ってきた。

「夢、ですか……」

今は人々が夢について語っている様子。静かに話を聞く。

「特定の誰かを夢の軸にするとその誰かを失ったら……どうにも出来なくなる。」
「かと言って不特定多数だとままならない、誰かのためはいずれ自分の為になるから。」
「見返りを求めるのも大事だ。対価なき施しはいずれ食い物にされるよ。」

「僕の夢は……。」

「……いや、まあいいか……。」

「手が届かないとわかっていて目指すんですか」
「不思議なモンですね」

一時的とはいえ、曙光の徒としては、模範的か。
ここにあるのは手の届く享楽ではあるが。
満ち足りてこそ更なる理想を求めるものだろう。

「あァ、まあ、何かを使えば叶うモンならわからんでもないです」
「理解ができました。まったく違うモンではないらしい」

「何、好きにすればよろしい」

「終わり際に、やり残したことのないように」
「夢の別名は欲とも言う」
「そう大して変わらんよ」

「行きたくねぇ〜地下街」
　治安が悪すぎる〜っ

「あ」

何かを思いついたように口を開き。

「昨日の鬼ごっこ楽しかったから、また遊びたいなあ。みんなで」

それって、夢ってよりは願望かも。
まあ、子供たちと平和に遊びたい、というのはある種夢かもしれないが。
もちろん、ただの通りすがりの独り言。

「楽しいところなんだけどな～」
暮らしやすくはない。

「黒……」

ぽつりと零し。

「手の届かないものこそ欲しくなるのだろうなあ」
「何時だって、欲しいものは、自分のものではないものだ」
「食いたい、飲みたい、好きにしたい」
「そう変わらん」

「まあ、なんか希望持った方が終末前も楽しく生きられるだろうよ。
　夢持てんコッチ側は、希望眩しくてよぉ」

「社会規範だろうがなんだろうが、そういう店があるってことは需要もあるからな。」

「おにごっこ。おもしろそうだね」
とても走れそうな肢には見えない細さだが。言葉は無邪気な子供に同じ。

「業を積めば夢が叶う、かもしれない」
「業の有り無しという単純さを曙光はよしとする」
「ある意味で、夢を掴むには良い場所かもしれん」

磨き終えたパイプを咥えて、葉を詰めて火を点ける。

「鬼ごっこ」
「て、何ですか？」

ぽつりと零された、見知らぬ言葉に首を傾げる。
無知蒙昧。子どもよりずっと。
これも単なる独り言。拾っても、拾わなくとも。

「私は叶わなくなってしまった夢の代わりに何を掲げようか。」
「妹の遺品も遺体も埋められなかったし……妹の墓を作ることにしようかな。」
「名前さえあれば墓標に刻める、遺したモノがあるというのはいいね。」

「何を楽しみに行きゃぁいいんだ地下街って。
　人の不幸？」

「鬼事か」
「無邪気よな」

そういうのは嫌いじゃあない。

「鬼ごっことは、追いかけっこのようなものよ」

「鬼を決めて、他が逃げる」
「鬼は逃げた他を捕まえる」

「そういう、遊び」

「鬼ごっこはしてたよ。METROでも」
「殺してやる～　お助けください～　って」
不穏。

「結構ちゃんとした夢持ってる人も沢山いるもんだな」

「はい、勇気を出して足を運んで、良かったと思っています」
子供は少々満足そうだ。
目の前の幸福を謳歌する者であっても、
為したい夢があるということがどういうことなのか、
それぞれの考えを持っているのが分かったから。

「え、鬼ごっこ知らない子いるの？」
「逃げる側と追いかける側でわかれて、走るんだよ」
「鬼が追いかけて、タッチしたら鬼交代！」
「今度僕とやる？」

耳はいい方で、声を拾ってはお喋りを投げつけた。
人数いた方が楽しいと思われるが、雨音は二人でも楽しいらしいな。

「腹ン中にあるものを腹に入れようとは思わんです」
「手前のモンを、欲しいとは思わんでしょうね」

とはいえ、まあ。
夢というものひとつとっても、
現実的に実現可能か不可能かの違いがあるらしい。
それはひとつ、収穫だった。

「子供が遊ぶ様子を眺めながらおにぎりとか食べたいな…」

「……うん、子供が遊んでいる内は平和だろう。」
「いいことだ。」

「そういうことよな」
「手の届かんものは、よほど眩しかろう」
「目を焼かれれば手放せなくなるかもしれん」

あるいは、挫折を味わうか。
どこぞの太陽を目指し、地に落ちた男のように。

「追いかけっこ」
「逃げて、捕まえる。走って、触れたら交代…」

「遊びってんなら、娯楽なんでしょうが」
「娯楽なんですかね？」

またしても首が傾ぐ。
頭の中では何ら面白みのない絵面が繰り広げられていた。
やったことのないものには、わからぬ楽しさ。

「子どもらが遊んどるのは良いものよな」

見てて楽しいし可愛らしい。

「鬼ごっこした事ないな……」

「娯楽よ」
「一度やってみんさい」
「肌に合うかもわからん」

お試しに誰かと遊ぶの、おすすめです。

「娯楽だよお、走れる身体さえあれば他になんにもいらない」
「ルールもかんたん！　いい運動になるし」
「子供たちは楽しそうで、最高」

鬼ごっこ信者みたいになってきた。
悪いもんじゃないよって言いたいだけではある。
雨音も子供たちが遊んでいるのを見るのが好きなのだった。

「結構やったことない子いるんだね？」
「僕でよかったら、いつでも遊ぼうね」
「走るの大好きだから」

「鬼さんも子供のころは……」
鬼ごっこをしたような、していないような…
もう記憶が薄れてきたな。

「……私も鬼ごっこしたいけど、生憎この刀が重くてね……」
子供たちの中に混ざろうとしていた27歳成人男性。

「へェ。まあ、やってみないことにはわかりませんね」
「楽しい事も、楽しくないよかずっと好ましい」

「身体ひとつあればいい、てのは助かります
　あいにくなンにも持ってないモンで」

業以外は。
どうもこの身はよくよく縁があるようで。
何も持っていやしないのに、業ばかりが降り積もる。

「ま、今度、ね」

じきに雨の降る時間だ。
そこかしこが慌ただしくなるだろう。
鬼ごっこの規模が大きくなりかねない。

「……」

あたまがいたくなってきた。
寝よう。
男はふらふらと寝床へ戻って行った。

温室でただ一人、大切に育てられた子供には、
同年代の子供と遊んだ経験はありませんでした。
様子をじーっと見つめています。

「うおぅ、おう」

　意外と乗り気な成人たちでビビる。
　元気だな〜〜っ

「ふむふむ……まぁ……遊んでみるのも……ありかも……まともに遊んだことないし」

「元気があるのはいいことだねえ。」

ふあ、と欠伸をかみ殺しながら。

「乗り気な者が多く、良いこと」
「機会があれば眺めようかね」

参加する気はないらしい。
見学専です。

「転びそうになったらちゃあんと受け身を取るのよ」

「刀……あ確かに重そう」
「ならみんなで重い物持ちながら走るとか？」

ルールを追加することで平等にしようとしている。
27歳を巻き込む方法を探しているね。

「今度、頂きました」

顔覚えとこ、なんて。口には出さないけど。