「道具……」
＊ひとつでもそういうものが拾えれば良いのですが＊
＊あるわけもないので＊
＊ずっと塵芥を集め続けています＊

「そうかもしれんなあ。鼠食べることはないし、あんさんらのために、うちが此処から動くこともないけどな」
なんて言って、また盃に注いでは乾かす。

「飾る前に焼くからね～」

堂々と宣言した。

「カバンも道具も焼いたら良い業になるよね～欲し～」

「カカッ！オレァ割合ヨユーありますんでェ〜」

終末を楽しんでいるだけのその日暮らし。

「薪かメシかだナ。猛獣ン前に体を投げ出す聖者になれるゼ？」
「あー。干し肉。干した鼠も結構イケるよなァ〜」

＊きっ、と睨みました＊
＊怖くもない威嚇＊
＊燃やされたらたまったものではないのです＊

「道具を焼いたらそれはもう本末転倒でしょ。」

「お近付きになって祟られたくねェし、止めとくか」
こわやこわや。乾物にされちまうよ。

「業ねぇ。此処だと大したことないブツ、溜まってンのよな」
「明日辺り、適当に焼きに行くかねェ」

「え？ワタシ今睨まれて馬鹿にされた？殴った方が良い？」

グルングルン肩を回してる。

＊ちゅう、と鳴いて姿を隠しました＊
＊鳴き声以外、足音ひとつありません＊

金具を焼いて、燃え上がった炎を眺める。
業の増える感触。業はあればあるだけいい。
業の大小がここでの人間の価値だ。

「結構燃えるな。骨牌もこんくらい燃えるのか？」

「骨牌はもっと燃えるよ。」

「祟りごとなんて、叶いますもんやあらしまへん。できるんやったら、うちはとっくにあんさんらを影で愛でとるわ。ま、そんな律儀なこともするか分からんけどな」

＊物陰から様子を伺いながら頭を出します＊
「かるたは、よく燃える」
＊何度か燃やしたことがありますが＊
＊それはよく積もる・・・のでした＊

「そいや骨牌焼いてね〜な。結構いい灰になる感じ〜？」

「ほんとかよ。」

情報に返すのは疑いの視線。これもデフォルト。
ここで本当の事を口にする奴はあまり見たことがない。

「ほんとだったらわざわざ移動して燃えやすいとこで燃やす意味はないな。」

「そンなら安心」
「ま、今やよく分からん力も存在しねェよな」
酒瓶拾い上げ、ラッパ飲み。逃げるネズミを目で追った。

「とはいえ、紙片も骨牌も確実に欲しいものだから。
　ダブりそうになったら、先に焼いてからすぐに作り直すくらいの勢いがいいかも。」

「オレぁ穏健派だからナ〜骨牌も紙片もそーんな要らねェや」

真偽は不明。

「アッ逃げた、殴ってないのにシツレ～」

殴ろうとしていたから逃げて正解。

「カルタ良い感じになるんだ、へ～」

手持ちの骨牌は2枚。
燃えるのが本当ならいい財産だ。

「ある程度業深い奴相手じゃないと挑む意味もあんまねぇのか……」

「大層な力あったら、しょうもない世になっとらんかもなあ」
鼠を目で追う。すぐにやめる。

「ああ暇や暇や。喋るんも飽いてまう。うちは暫く黙っとくさかい。退屈させんどいてね」

「ドローだと浅ェ奴の方が勝つルール鼠賊の紙片もあるしな」
せこせこ稼いだところで奪われて終わる。
故、一週間程度は雑に過ごす予定をしていた。飲んだくれて。

「カカッ。業貯め込んだヤツぁ業ねぇヤツなんて相手したくね〜だろしな？」

ハイエナは難しいのだ。死人相手は楽。

＊暇なら塵芥でも集めればいいのに＊
＊とは、言いません＊
＊人より頑張った分だけ自分の価値も上がるのです＊

「さってと、メシ探してくるか」
「ネズミどもは励めよォ」
空になった瓶を置き、この場を後にした。

「やだな〜」
奪うのも奪われるのも、死んでまで退屈に殺されるのも
聞こえてくる会話に苦笑しと肩竦めつつ腰を下ろした。
小休憩。

「ケンカ吹っかけても相手が乗らなきゃ意味ないって事だ。
　ワタシでも分かる」
「それはそれとして業溜め込んだやついない？ダイジョブダイジョブ、何もしないから」

「？」
「はげむ」
＊言われなくても日常のこと＊
＊励めと言われたので言葉は返しますが＊

「溜め込んでるヤツぁ溜め込んでるなんて言わね〜だロ〜」

「ネズミじゃねぇ」

いつも通りの返し。
業の量に名乗り出ることもない。
骨牌を増やし、懐にしまう。そろそろ鞄の余裕がないな。

「………。
　ねずみだ……。」

　ねずみだ。

「ちぇ～」

後ろで腕組んで唇尖らせてる。

「ネズミでしょ、自覚無いのはカワイソ～」

「あ、何、食いもん？」

何処かにある寝床から這い出てきて、寝起きの髪や顔のまま人前に顔を出す。
ねずみ、の言葉が聞こえて先日鼠串をいただいたばかりであるので勘違い。

「ねずみじゃない」
＊ねずみではないらしいです＊

「ネズミが二足歩行で人の言葉をしゃべんのかよ」

割合で言えば人間の方がはるかに多いのに、
大きな耳と尾が悪目立ち。いつも通りに不機嫌な顔だった。

「ねずみで反応してる子が二人もいる……。」

「ネズミどもは頭ワルいんだね～
　その耳と尻尾が有って人って言うホーがオカシーでしょ」

＊ねずみじゃないと返すのは、真似ごと＊
＊子鼠はあんまりよく分かっていません＊

「塵漁りネズミって意味ならここの連中はだいたいそう」
へらへらと笑いながら、種の殻を砕いて中味を口に放り込む

「うげぇ」
ハズレ。お味は渋かった。

状況を確認。ち、っと舌打ち。お下品な仕草。

「これじゃ食えねえじゃん、期待させやがって」

「くか～～……ううん、
　こんなに、臓物取り切れないよ……」

幸せな夢を見ながら寝こけている。
涎まで垂らして。

「……人前で堂々と……お幸せなことで。こいつ小難しいもんしか持ってなかったんだよなあ」

眠る女性に近づいて。
性懲りも無く、恥も知らず何かしら盗もうという気らしい。

「勝手に期待してやんの～
　……おっ寝てるやつ居るじゃん」

ひっそり近寄って物盗りをしようと。
途中でバキッとゴミを踏んで音鳴らすから起きても良い。

「人だろ〜が鼠だろ〜が変わりゃしね〜のにネ〜？」
「死んだら誰も彼もどーせ砂行きだゼ」

「タカられててオモロ……。内臓提供してやれョ。業でもなんでも譲ってくれるカモよ」

止めやしない。
煙草を咥えて眺めるばかり。

「あ、クソガキが寝込みを襲おうとしてる。」

　誇大表現。

「こおんな場所で襲われるほど無防備にしてる方が悪いだろ。
あー……誘ってんだろ？きっと」

鼻で笑う仕草。悪びれた様子もない。

「こんな人目に付く場所で寝て正気か？
　未だに愚鈍な奴もいんのかよ」

ゴミを踏む音にうるせぇと悪態一つ。

「ヤベッ……」

盗もうと言うのに音を鳴らす愚鈍さ。

「誘ってるならノってあげなきゃ損だよね～」

「まあ実際、こんなところで自己防衛が出来ない時点でね。」

　そこは頷く。

「永眠になるかもな」

「おはよう、皆。
　ちゃんと寝られたか？」

ボロ布を纏う浮浪者を診断している。

「なに……毎晩痛みで眠れない……
　そうか、残念だがもう助からないな……」

「すぅ……すぅ……
　あ、おかわり……？もう人一人作れちゃぅ……」

すぐに起きる様子はない。
消毒液だとか、ハサミやメスだとか、昨晩拾った塵だとか。
ここでは希少ではある品やここでもありふれた物品が盗り放題。

起きない事に気を良くして深追いしたら起きるかも。

「診断が早い。」

「懐かしいな……」
自分もここでの暮らしを始めてすぐの頃に人目につく場所で寝コケて持ち物から下着まで剥ぎ取られたな……。
哀愁と親近感の視線を向けた。

「他所は一体どのような雰囲気なのだろうか」

「獣モドキのガキにだってわかる、この世界のジョーシキってやつを守れねえんじゃどうなったって……

……あ、そこのガタイのいいあんちゃん、その煙草吸い終わったらくれよ」

「良くも悪くも、生き急いでる人が多いよね、ほんと。」

「睡眠薬……？そんな危険なものは処方できないぞ。
　…………そうか、そこまで言うなら」

「確か、これだったかな……」

【睡眠薬チャレンジ】
【4以下で正解】
[2d6]

「起きてない！ヨシ！ちゃっちゃと盗んじゃお」

ハサミやらメスやらを拝借してる。
服は流石に無理そうなので止めた。

「あ、死ぬやつ居るの？後で漁ろ」

「白衣着てるだけの凡人もいる」

いつも適当に診断してる(ように見える)医者だ。
ここのメンツも大概代わり映えしないな。

眠る女性から消毒液を拝借。
蓋を開けて匂いを……。

「なんだ？酒か？」

価値をわかっちゃいない。

＊リスクを取る勇気はありませんが＊
＊無防備に寝ているのです＊
＊奪うも何も咎めやしません＊

「生き急ぐのも良いが…
　怪我と病気には気をつけるんだぞ」

「体が資本主義だ」

「オレ的にゃ、その辺で寝こけてて朝を無事に迎えられてるヤツに手ぇ出す方がリスクだと思いますけどネ〜」

何故なら朝まで放置はされないものなので。夜中のうちに全部剥がれてなきゃおかしいのだ。

もぞり、と動く影。
静かに起き上がった。

「ここは運が良い人か、
　自己管理が出来る人が長く生きられるからね。」

　長生きがどの程度かはさておき。

「寝てるなら起こさなきゃ良いんだよ～っと」

早速盗んだ物を燃やしてる。
良い感じの業に変換された。

「シホンシュギ？飯の名前？」

地下通路の奥の暗がりからうすら白い影。
ふるふると頭を振って揺らせば
纏う塵がさらりと落ちて、艶のある髪が凪ぐ。

それから通路の端に座り込んで
塵漁りやら研究者漁りやらを眺めていた。
まさしく掃き溜めに鶴といった様相。

「……ふぁ。
　完全に寝ちゃってた！おはようございます！！」

二人が収穫を得て、ちゃんと離れた所で都合良く目を覚ました。
何かされたかも、なんて身の回りを検める事もせず。
元気の良さをアピールして自分は弱った獲物ではないぞ、
などと主張しているが、時は既に遅し。

「医者とは、天才がなるんじゃない。
　学べば誰もがなり得るものだ」

「僕も少しずつ記憶を取り戻している。
　現に今渡した薬は合っていたよ……」

「カカッ、鼠捕まえンのに狸寝入りしたことあるッてコト」

オレがね。
無事にたくさん捕まえられたとも。またいつかやろっかな。

「いつまで生きてるか見物だな。」

起き上がった女と、もう一人、起きた女。
歩いてきた髪艶のよさそうな痣の人間。
それぞれ一瞥しては、吐き捨てた。

あーあ。毟られちゃって。
命ごといかれなかっただけマシかな。お優しいこって。

「はいオハヨ」
「お医者サマは記憶喪失なノ？大変ネ〜」

「薬が常に100％一致してから初めて医者を名乗れよせめて」

「シュミ悪！？お～怖々」

エンガチョエンガチョとちょっと距離を離した。

「さっさと死んでくれたら燃やせるから早めに死んで欲しいよね～」

「どーせ滅ぶンなら今死ぬンもちょっと後で死ぬンも大差ね〜デショ！」

カラカラ笑った。

「ひょろい女とガタイのいい男に近づくんじゃだいぶ必要な覚悟が違う気ぃするけどなあ？」

狸寝入りのネタ明かし、していいのかと軽くジト目。人に向けていい目線ではない。

んー、と首をかしげる。
追いはぎがあったのだろうかと。

こんな場所だもんなぁ、と1人納得していた。

「カカッ。しゃーねーじゃん腹減ってたンだからァ。ちゃーんと燃やさずお残しもしなかったンだぜ？褒めてほし〜トコだなァ〜」

ニヤニヤ笑う巨躯。真偽は不明。
ジョークだとしても面白くはない。

「切羽詰まってる輩ァ獲物を選べね〜ンだよ。皆も切羽詰まる前に勤勉に働きましょ〜ネ」

「えっ、亡くなった方が？だったらまだ新鮮な内に部品取りを……」

立ち上がってごそごそと懐を漁って……漁って……

「……？」

あれ？道具が無い？
逃亡している間に落としちゃったかな？

首を傾げながら座り直した。バカ。

するり。
溝から這いだす鼠のように出てきた。

「ふ～ン、今度ワタシも真似してみよ～
　盗人の阿呆面叩くのタノシそ～だし」

ガハハと笑ってる、下品。

「さってとワタシは今のうちに飯を漁りに行くかな」

被害者が此方に矛先向ける前に何処かへ逃げた。

＊死体に手を掛けるのも＊
＊まぁ日常なので何も言わず＊
＊やはり遠巻きにがらくた拾いをします＊

周囲の話に耳を向けつつ、火傷まみれの手でこそこそとごそごそ。
手慰みに余った塵類で小さな飾りを生産している。
作っては燃やしてを繰り返し。

長い睫と形のいい唇でうっすら微笑んでは佇んでいる。
ねずみ、追いかけるよりはねずみ捕りを置くのがいいものね。
わざわざ喋って見た目以外で目立つのも大変だから、黙っているけど。

荷物なくなっちゃったねぇ。見ていた。

「この辺盗人とか出るんだ、怖……」

人が良く起きてくる時間だ。
今日のMETROはいつも通りひりついた賑やかさ。

「もうすぐ昼か。腹が減るのははえーな」

空腹で大体の時間を察すれば、さて飯はどうするか

「ああもう、持ちにくい……」

拾ったものを落としそうになった。
これだから不便だ。

「むしろ何故のんびり起きるのか。」

そのうちハッとなる。
自分の荷物はあるだろうかと漁る。

手帳数個とペン。
それだけなんだけど。

見つければ安心した顔になる。

仮眠の間に何か取られちゃいないか、懐叩いて、それから目視でひと確認。
もっとも、何を取られたとて、わからないくらいには持ち手が多いの、だが。
「……行くか」「そろそろな」「そろそろだ」
誰に言うでも、ない、言葉。

「ガッツリ盗られてたケドね？」

呑気だな〜。

「今日ァなに食いに行こっかな。天津飯にでもすっか……」

「明るくなるまで起きてたんだろ。
闇に紛れておイタしてたんじゃね？」

「いってらっしゃ～い」
「お気を付けて」

去る人には手を降っておこう。

腹をさすりながら持ち物確認を眺める。
何か落とせばそれを拾おうか、あっちのは紙やペンだけか。
あいつは色んなものを持ってそうだな。
そういう情報がいつか活きる事もあるから。

片隅まで移動して、こっそり酒と間違えている消毒液を舐めようとしている。

「今日も生きるためにゴミ拾いだな………」