「食わずに美味いか不味いかを決め付けるのは勿体無い！」
「百聞は一見に如かずとも言うでしょう」
「百聞は一食に如かずとも言う事にします」

そこな梟首会の御仁はマズそ～な顔してらっしゃいましたが。

「確かに、食ってみねェことには始まんねェよな。
　ンじゃ遠慮なくいただくぜ！」

おバカなのですぐに丸め込まれる。

回されてきた紙袋の中身を鷲掴みにして、大きく開けた口にポイ。

「…………」

ビミョ〜〜〜〜〜！という顔をしています。

「ぇぇ…？」
「じゃ、そいつコヨーテさんの感想きいてから決めるわ」
丸め込まれかけたけど耐えた、おバカじゃないので自称では。

貴方が悪食ならば美味しいかも～と思うし、
貴方が美食家なら不味過ぎかも～と思うに違いない。

「ああ、そちらの安酒てんこ盛りも併せてどうぞ」
「酒精で臓腑が焼けて、いっそすっきりしますから」

「ふふ。
　飛んでく砂と、一緒に行きたくなったのさ。
　そんな畏まんなくていい」

「光銀コウギン。
　どうも歩いてばっかいると、名乗りを忘れていけないね」

「こ、これはメトロ飯というのですね。一つ学びを得ました……
今日はこのまま曙光を見て回る予定ですが、そのうちメトロへも伺いたいものです」

見聞のために。
このご飯から察するに、梟首や曙光とはまた違う趣を持った場所なのだろう。

「舞う砂塵の行き着く果てがこちらになります」
「是非とも気に入っていただけたら……おっと」

慇懃無礼と過られちゃいけないが、性分故致し方ない。

「曙光のラァジューと申します」
「不便があるようなら気兼ねなく」

「必要もないのにわざわざ行くような場所じゃあないと思いますがね……」

見た顔がちらほらいるなと思いつつ、聞こえてくる会話にぼやいた

「へ、へへ……腹の足しにはなったぜ。
　あんがとな」

律儀なのでお礼は言った。

「嬢ちゃんには、向きじゃねェかもしれねェな……」

「んー……帰ってこれた、ここがやっぱり落ち着くな……」

「METROに出向く際は物盗りにご注意を」
「生れ付き手癖の悪い者も少なかない」
「貴重品は持ち歩かぬべきでしょう」

先ず、目を盗まれた隙を縫って、
懐から銭が失せてるなんてのも常であるから。

「んふ、」

ガイドめいた物言いに一人でややウケた。

「そうよねぇ、メトロなんてご飯もおいしくなさそうだし。
　行く必要なさそうよね？」
ぼやきにうんうんと頷けば。
「ほら、それメトロ飯アタシ向けじゃないって！要んない！」
数聞を一食に上回らせて判断して、ぷいとした。

「礼は不要ですが、特段突っ撥ねる必要もないな」
「どういたしまして。僅かでも飢えが満たせたら幸いです」

「ごちそうさまでした、ラァジューさん」

食べ終えると手を合わせて一礼した。

「物盗りですか。ご忠告ありがとうございます、気をつけます。
曙光とはまた違う意味で注意が必要なようですね……」

「ラァジュー。
　なら、今度会ったらそいつの使い方でもご教授願おうかな」

煙草の煙を示して。
自分はむせたっきり放っていた煙草を踏んで火を消し、
空っぽのパックへ放り込んでおく。

「メトロか……さっき行ってきたけど、まぁ凄いところだった、比較的治安の良い場所だったが……それでもおちおち寝てられなかったな」

「おれもメトロ？はまだ見てないや。
　ま、身体はひとつしかないし、そのうち。
　ご馳走さ〜ん」

立ち上がって、やれ見聞だと曙光をのんびり歩いていく。

「あらま、随分と嫌われたもの」

オオ～散々な言われよう。
かわいそうに……パックご飯を撫で摩ります。
なで……なで……さす……さす……あよちよちよち。

「……？」
「死んでる……？」

めっきり冷たくなっちゃってサ……。

「んは、使い方とはまた妙な事を」
「安価で美味い煙草を知っていますよ」
「僕も大概神出鬼没気取りですから、またの機会にでも」

紫煙を吐いて緩く微笑。
肺の用途を教えろと言われてるようなもの。

「ご飯……死……！？」
「美味しく食べてやれなくて、すまなかったな。あっちの世では幸せなご飯として食われるんだぞ」

目を閉じて合掌。幸せなご飯って何？

「ただいま、こっちは降ってないんだ」

てっち、てち。
不自然な歩き。

ここが曙光か、と。
軽く見渡す。

歩き疲れた。開いている場所に座る。

「どうもどうも、こんにちは。
今日も神のご加護がなんとやらー、この場合加護じゃなくて庇護かもですが」
「おや、METROの食事ですか。不っ味いですよねぇ、あれ」

「行ってらっしゃい、光銀さん」

黄笠の人も今日になって初めて名前を聞いたが、これで覚えた。

「寝ていられない程なのですか？メトロは……
で、ですが私とていざとなればこの剣がありますから……」

挨拶には軽く手を振るなりで反応した。

ご飯か、そういえばまだ今日は何も食べていないことを思い出す。
ぐぅ、と少し腹の虫が鳴いた。

美味しい美味しいと言われりゃ馳走も浮かばれるでしょう。
数珠を擦り合わせて譫言めいた念仏唱えた。

「ま、チンすりゃ蘇りますよこの類」

途端にケロリとした。酔っ払いの言う事真に受けちゃいけない。

「同時多発人間？」
急に人がいっぱい来た。知った顔知った顔知らない顔。

「御機嫌よう、皆々様方……
　メトロは悪い所ではありませんよ。
　私が案内して差し上げますから行ってみませんか？
　行きましょうよ……」

「あはは、お昼時ですからねぇ。
一仕事終えて休憩、という方も多いのでしょう」
「わたしはこの時間まで惰眠貪ってただけですけど」

「知らない顔だ、新しく来た人か……なんか食うものあったかな……」

「メトロは……僕さっき言ったばかりだから遠慮しとく」

「うーん、頭に包丁刺さってる人に言われてもですねぇ」

「METRO行く際は、頭に刃物の刺さった狂人に注意して下さいね〜」

「さて、私は…梟首会にお邪魔してきます。
では皆さん、また、何処かで……」

ゆったり緩慢な動きで、立ち上がって、ゆるり歩き出す。
…少しふらついてるかも。

「そこな紙袋に土産の品がありますから」
「適当に取ってってください。味は保証します」

放置された紙袋には古ぼけた酒瓶と、
名状し難い炒飯風のがプラスチックのパックに詰められている。
舌が壊れてりゃ美味しいと言える奴。

……噂の刃物刺さりの死にたがりが居た気がするが、無視しておこう。

「おや、包丁ちゃん！包丁ちゃん！じゃないですか！」
「心を改めたんですねえ。いつになく落ち着いている……」

『剣は相変わらずで、安心というか、いや安心ではないか。』
かりっとペンを紙に滑らす。

まぁ少し彼についてきたような形で来たようなものかもしれない。

「頭に刃物の刺さった狂人なんていませんよ……
　私は狂っていませんからね。狂ってるのはこの世界だ、そうだろ？
　オイ、コラ、悪評ぶちまけて去ろうとしやがって、コラッ！！！」

「件の人物が目の前にいるんだけど。こわぁ……」

「あ、全然普段通りで安心です。威勢の良い子って可愛いですねえ」

「（頭の包丁を弄る）（グリグリグリグリグリグリ）
　ここってよォォーーー警備員とかいねェからいいかァーーー調整戻してもォ！？
　オイ！剣ちゃんは包丁じゃねェ！
　そうだよオレは安心だよ。殺してやるからよ。コラ！」

「頭に刃物の刺さった狂人、とは……」

今まさにそこにいる方ではないだろうか。

「コホン……さ、さて、ご飯も食べましたし私も曙光の街を見て回りましょうか。
では皆さん、またいずれ」

噂の人がやや気になるものの、出かけようと立ったタイミング。

『まぁ、死にたがりの頭に剣が刺さってるだけの人だから。…梟首会ではおとなしかった気がするけど。』

「あら、その方もしかして有名人ですか？
METROも変わりませんねぇ」

（なんでここだとアイツ頭イかれてんだ？という顔をした）

「なんで今日も地下臭いの、ここ？」
「………ま、別にいいけど」

「ここでも大人しくして欲しいが……まぁ、危害が及ばない分にはなんでもいいか」

『夜はおとなしかったんだけど、監視の目を気にして猫被っていたのかもなぁ。』
推測。

「おっと、不興を買う前にちょいと買い出しへ」
「誤魔化しじゃございませんよ。ほほほ……」

言うが早く、脱兎の如く逃げ出した！！
包丁にチューナーの役割があるだなんてビックリ仰天。
モノトミー手術とかの残り香だったりするのかしら。面白過ぎ。

「クソクソ監視ゾーンだとよォォーーーー窮屈だったぜ！
　機を伺ってたが誰も殺せやしねえ　死ねもしねえ　ああ下らねえ
　オイここだと業が全てなんだってなァ？なら業やるからオレを殺せよ……
　もしくは死ねよォーーーーーーーーーーッ　逃げるなァーーーーッ」

「今日も元気で何よりだ。」

「うーわ！メトロってあんなんばっかりいんの？！
　最悪じゃない！」
ばっかりかは知らない。

『なるほど、だから夜あんなプロポーズしたのか剣。いつもならとびかかって来てもおかしくない感じだったのに。』
目をつけられたら元も子もないし。

「むしろよく殺されてませんねぇあの方」

遠巻きに眺めて、はて、と首を傾げた。

「あんなやつばかりだと思わないでほしいね………。」

「コラ！『あんなの』とか『最悪』とか、人を傷付ける言葉を使っちゃいけません！
　使っていいのはな、手。言葉でなく行動で示そう！
　こっちに来いコラ、行くぞコラ、オラ！！！！！！！」

「わぁ」
剣刺さってる人だ。
最後に見たとき大斧に吹き飛ばされてたけど元気そうでなにより……
それとともに、人の目が増えてきたのを見て音もなく物陰に消えた。

「そうだよォ。オレも考えて行動してるんだよ。
　あ、剣ちゃん……もしかしてアレに怒って黙ってたのか？
　誤解だよほら、プロポーズじゃなくてただ相手を人目につかず声も漏れず何があっても逃れようのない場所に引き込もうとしただけなんだって！信じてくれ……」

「あ、シスターだ」

「ね、聞いて」
「僕、撫でてもらったよ」
「触っては、もらえなかったけどね」

「むしろあんなのと呼ばれるだけマシと思えバカが。」

『メトロでもあれは異質だから気にしなくていいと思うよ。』
どっちかというと鼠帝国と書き加える。

「こっわ……世界は広いんだな……」

「オイ！アイツ、オレ見て『わぁ』って言って逃げやがった
　許せねえ！！！！！！そういった行動が人の心を傷付けるんだぞ！！！！
　まあオレは自分が傷付いた分回りを傷付けるんだがな。コラ！戻ってこい」

「ギャ！！最悪に最悪って言って何が悪いのよ！！」
やんのかコラ！気持ちは負けない。

「この街にも自警団かなにか導入すべきだろ絶対……」

『あのプロポーズの後ずっと業減らそうとはしたが、ダメだったということを言っておこう。剣。』

「自警団なんぞあったところで業狙いだろうよ。」

飯屋から出てきた。鼠と違って、帰る巣穴がある訳でもなし。賑わう街路を眺めながら煙草に火を付ける。
見覚えのある輩。ない輩。

「ヒィ！」
「別にアンタ見て逃げたわけじゃないですよォ！！」
声をかけられれば大げさに飛び上がり。脱兎の如くすたこらと逃げていった。

「おお、お目出度いじゃないですかぁ！
まずは一歩前進ですねぇ、これからも押せ押せで行きましょう。
目指すは人生のお墓、ですよ！」

人の恋路を聞いて勝手に楽しんでいるシスター。

「頑張って偉いなァ……ありがとう。
　業は減らす方が難しくて辛いぜ……えーん」

「それも……そうかぁ……」

「思ったことでもすぐ口に出しちゃいけないって習わなかったのか！？
　オレは習ったけどその上で破ってるよ。
　よし！今からこの世界という真の最悪から解き放ってやるからな。
　ヂュウウウウウオオオオオオヂュヂュヂュ
　ヂュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ！」

奇声を上げ腕をブンブン振り回しながら汽水の方に突撃してきた！

「鼠、ですか？
うーん、今どうなってるんでしょうか、あそこ。
今度久しぶりに覗きにでも行きましょうかねぇ」

変わった人がいると記録が捗るな。
静かに手帳の中身を増やしている。

「髪、綺麗だってさ」

いぇい、ブイサイン

「また、種を見つけたら」
「そのついでに、会いに行こっかな」

「ギャーーー！！！何こいつ何こいつ！！！！！」
悲鳴あげながらも逃げるより足を出した。
食らえ！転べ！！

「ヂ　ュ　ガ　ア　ア　ア　ア　ア　ア　ア」
ズベ！！！！ズルズルズルズーッ！！！ガシャアアアアアッ！！！！！！

思いっきり転げて、積み重なった何かしらにぶつかり、崩れた山に埋まった。

『やはり、一気に減らせるのは。』
例のアレだが。
やる相手はいない。

「色恋ねぇ、まぁ終末近くの娯楽って考えるならいいんじゃねぇの？」

「ふ～…治安維持に貢献したわ…」
やり遂げた、ミッションコンプリート。崩れた山に向かってRIP。

「うふふ、髪を褒めて貰えるのは嬉しいですよねぇ」

「種ですかぁ……わたしには比較的無用の長物ですので、
お渡し出来たらよかったのですけどねぇ」
「恋愛はまずジョブ、次にフック、
最後にストレートと聞きました。これも受け売りですが。
なにはともあれ応援してますよぉ！ 頑張ってくださいね！」

「わあ、コングラチュレーション」

ぱちぱちと拍手。

「仲良くしようよ……」

わぁ、となる。
安らかに眠れ……と言わんばかりに拝む。

『いい奴だったな、多分。』

「死んだ？ちゃんと持って帰ってよ」

「勝手に殺すなァーーーーッ　いや殺せ！！！！」
ガラガラガラ……残念ながら、山を跳ね飛ばして出てきた。

「ああ……スッキリしたぜ。業が……少しは剥がれたみてェだ……。
　ありがとうな。顔覚えたからな。」

「永遠に梟のところに置いとけば静になるだろ。」

「誰かあいつの頭に刺さってんのいい感じにして、アタシの記憶なくしてくんない？！」
ゲ！！の顔が出た。

『なら梟に押し込んで、剣から骨牌取り上げてもらって。』
なくても移動時間になったら移動できるからずっとは無理だけど。

「やめてよ、梟がドブ臭くなっちゃう」

「どこもドブクセェから今更だな。」

「そんな無茶な、まぁ梟のとこ置いとくのは良いと思うけど」