「また1人この世界の礎になったか……」

「犬を恐れる事はありません」
「犬は人間の良き隣人ですからね」

さくさく。足音

「良き隣人が推定人間を殺めてるんだけど……」

「やったことはまあ治安維持みたいなものですからねぇ」

実態は縄張り争いだけど。

「よくあるよくある。」

「もう剣が刺さってる人っーか地面に刺さってる人になって、今は地面に埋まってる人になったところだ」
犬に歯向かって埋まった、何を言っているか判らないと思うがマジでそうとしか言えなかったんだな。犬ってすごい。

埋められた顔見知りを発掘でもしようか。
掘り返す。

「なんかこの包丁で出力調整してましたよね」
「オラ、ボリューム下がれオラっ」

出っ張ってる包丁をぐりぐりと。
いいかんじになーれ。

「げ、また金具」
「METROのやつが、来てるせいかな」

「治安維持……？治安維持か……」

「ぎゃあああああ　ぎいいいいいッ」
「こんにちは。皆々様方……」「ぎゅうう」「ぐぼえ！」
「ゴガアアアアアアアアアアアア！！！！」「ジョン……」
「ブブー　ピーガガガ　ザピーザーゴーガーピーザ　ガーーーーー」

「ここで全員、仕留めるか」
「METROもちょっとは、安全になるかも」

「……ひどい言いがかりをされた気がする。」

「うーん、物騒ですねぇ。
それに一人二人いなくなった程度で何も変わりませんよ？
逆もまたしかり、いたところで何が変わるでもありません。
こういうのは無心で繰り返すのが吉かと」

「なんだ、終末の真昼間からまた口喧嘩か？」

「他の所に出張って来る奴を仕留めた所でMETROがネズミ帝国になるだけだぞ」
「ネズミ耳の生えた人間が滅茶苦茶いるからな……」

「怖いんだけど……！
もっと平和に行こうよ！？」

あら、壊れた。
壊れてしまったな。

「アハハ、『ジョン……』の辺りが湿っぽくて良かったな」
「ここな塩梅か、暫くしみったれていろ」

「しみしみしみ……しみしみ……」
埋まりながら、しみったれ続けている。

「人って、こうやって染みになるんだ」

「多分違うと思うんだけど……？」

「勉強になりますねぇ」

しみじみ。

「昨晩メトロに行ってみたが、噂ほどではなかったぞ」
「噂の下になった人物がどっかに行ってたのかもしれんがな」

疲れた。いつか出てくるだろう。

そろそろ移動しようかな。
じゃあ、と顔見知りをその場に置いて骨牌を握りしめて去って行く。

「あぁ、そこの下にいる人かな……多分
去る人は気をつけて……」

「ま、何処にいようが咎められないしな。」

「ああ、この頭に刃物が刺さっているのが件のか」
「見るからになんというか、凄いな。笑える」

「ふぅ」
「で」
「なんでしたっけ」

「オイ……笑ってるのか？良いことだな。
　オレを笑いの種にしやがって！殺す！
　でも今埋まってるんだよな……　しみしみ……」

「可哀そう……だけど、自分から挑んでそうだしこれもまた自己責任なのかな。」

「そこでじっとしていてくれ……」

「曙光に来てまで戦うのも元気なことだな」
「面白いから酒でも一杯奢ってやってもいいぞ」

「犬のナワバリで気に食わないことをするとああなります」

「移動してから戦うのって結構体力いるもんねえ。」

骨牌を作るのも手間だし。

「お酒、奢れるんだ」
「豪勢だね、お兄さん」

「酒だと！？オレはこの醜悪な金ピカ経済を回す歯車にはならねェ……！
　でも空の酒瓶ならくれ　その辺にぶつけて割るからよ」

「ボトルじゃなくて一杯だけだがな」
「私は溝攫いなんでな。喧嘩の空気は苦手だ」
「酒の一杯でそれが解消されるなら安いものだ」

「アタマにもう一本生やすのか、染み」

「おお、資本主義に対抗する思想の持主だったか」
「刃物が頭に刺さってるだけあって面白いことを言うな」

「やっぱ犬怖くないか……？」

「犬の良き隣犬ですからね、人間は」
「犬は怖くないですよ」

「僕も、喧嘩って嫌いだな」

「リッチならちょっと貰おうかな、って思ったけど」
「お酒奢ってくれるなら、そっちでもいいよ」

「物と金で経済とやらを回した所で満ちるのはこの蛆の沸いた塔だけ
　終わって先のねえ世界の象徴　業のどん詰まりのメッキ細工
　そんなモンの為になること全て　尽く無くならないといけないんだよなああ？
　だから死ぬ　殺す　ちょっと手が届く距離まで来てくれよ　楽にしてやるからよ」

「剣の方が隣人だぜ　剣の方が怖くないぜ　おいで～」

「まぁ犬はともかくとして……剣に関しては絶対ろくな事にならんだろ」

「よく喋るな。刃物が頭に刺さってるが、実は頭が回る方だな？」
「ああ、酒なら奢る。一杯だけだがな。勝手に頼んで私につけといてくれ」

「いやぁ、リッチな人は羨ましいもんだよ。」

「いいな～。」

「大丈夫大丈夫……オレは少年にも優しいぜ。
　そっとハートを突き刺してやるからな……」

「そうだよ。オレは賢いんだぜ。1+1は1だぜ。
　コラッオレは間違えてねえ！ガアアアアアア」

「また発狂しやがった。」

「やった、一番高いの頼んじゃお」

「皆も飲もうよ、どうせ暇でしょ」
「あのお兄さんが、奢ってくれるって」

「飲みたいのなら勝手に注文して、支払いを押し付けるくらいはしていいぞ」
「それくらいはやってみてくれ。終末の一時に享楽の花を楽しむなら友人だ」
「なにもかもがくそったれなら、せめてそれくらいは健全であるべきだ」

「いいね、たかれるときにたかるもんだ。」

「刺されたくないって話なんだけど……？
やっぱこの人やばいよ！」

「ごきげんよう。昼間から元気なことね」

「アルコール消毒したら治るか？」

「え、お酒……僕飲んだことないんだけど……どんなのがあるの？
あ、ごきげんよう……」

「やった！こっちに来るタイミングが良かったみたい。」

「包丁伝って芯まで消毒出来そうですね」

「やめろ！オレのアタマに触って良いのは医者だけだ」
「邪悪経済を回そうとしやがってよお……！
　そろそろ出た方がいい気がしてきたぜ
　やっぱあの少年かなぁ」

「おすすめは蒸留酒だ。傷の消毒にもまあ使える」
「喉が焼けるようなアルコールのキックが心地いいぞ」

「ふぅん、はじめてなんだ」
「高いのがいいよ、安全だし」
「安すぎるのは、変なのが混ざってるかも」

「密造酒だと最悪失明したりするからね……極端に安いのはやめたほうがいいよね。」

「少年の人間」
「染みからご指名ですよ」
「一皮剥けた大人なところ見せてください」

「お酒はいいけれど、倒れるまで飲まないように気をつけてちょうだいね」

「そうだな。最悪死ぬから気を付けろ」
「混ぜ物と偽物は命に係わる。終焉を前に死にかけないからな」

「それじゃ……高い蒸留酒……？」

「お酒。私も飲んでみたいな～」

「え、ご指名……やなんだけど、刺されたくないよ？？？」

「一皮剥けた……。」

「嫌なら他のガキを差し出すといいぜ……
　ほらァ……ガキが増えてきたな　誰にするんだ……」

「飲みたいなら飲んでいけ。一杯だけだがな」
「二杯目からは自腹だ」

「剥けたというか、剥かれたというか？」

「頑張れー、勝って美味しいお酒を飲もう」

「そこ繰り返さなくていい……
え、えぇ……他の人差し出すくらいなら仕方ない……刺されたくはないけど」

「ふぅん……。」

なるほどね。

「あ、僕はこれにしよっと。」

そこそこな値段の蒸留酒を選んで。

「オッ、いいねえ……スレてねェ答えだ。
　オレはお前みたいなガキは好きだぜ。
　他人を犠牲に出来る程業はなくても、
　自分なら犠牲に出来る意志があるヤツはよ……殺してやる……」

ガラッ、ガラガラガラドシャッ。自分に積もっていたものを投げ飛ばして除ける。
出てこようとしている……

「……できたら埋まっててくれたら助かるんだけど……」

小石でも投げておこうかな

「いて　イテテテテテテ　アダダダ　コラコラ、投げるなよ～ハハ
　ブ　チ　殺　す　！　！　！　！　！　！　！　！　！　！　！　！
　ヂュアアアアアヂュウヂュウウウウウウオオオアアアア！！！！！！」

拳を振り回しながら突進してくるッ！！！！！！！！！

「あ、と……えーと……これ僕の勝ちだよね……」

「が　あ　あ　あ　あ　あ　あ　あ　あ　！　！　！」

なんやかんやあって、別の何らかの山に突撃し、埋まった。

「ああ、あんたの勝ちだな」

ぐい、と度数高めの蒸留酒を煽りながらそばで行われてるやり取りに目を見遣る。

「……わ、すごい！あっちの黒髪の少年が勝っちゃった。」

相克を酒の肴に心なしか上機嫌だ。

「これがお酒？水みたい」
「（もごもご）……のどがやけてるみたいな感じがする」
「へんなにおいだし。おいしくはないかも」
貰っておいて図々しい感想。

「派手で面白い見世物だ。酒にはぴったりだな」

とは言うが、奢り主は手ぶらで笑っているだけだった。

「お、祝杯だ」

かんぱーい

「やーい、言われてるほど強くないじゃん」

「きみぃ、やるねえ～……僕からも奢らせてよ。」

すすす、と黒髪の少年に近づいてそのようなことを口にする。

「あら～。あらあら、お酒の話？ちょっとまぜてもらってもい～いかしらん」
高い露出度と纏った花の香が強い……あきらかに”そういう”職業であろう女がふらりと現れる。

「え、えと……あーうん、奢ってくれるなら……ありがたく貰うけど……蒸留酒だっけ……それ貰おうかな……」

歓談を横目に紙切れを燃やす

「やるじゃねェか……ガキ……」
「オレより……そのガキが、強かったのさ……それ、だけ……　ガクッ」

「よし」
「犬＞染み＞人間なんてことになったら」
「ヒエラルキーを重んじる犬としても付き合い方を考えなければいけないところでした」
「素晴らしいですね少年の人間！」

ビルの隙間を渡り歩くメトロのネズミ。
時折こうしてこの姦しいビル群に来ては、
享楽主義者が雑に貪ったおこぼれを拾い集めている。
まだ食べられる飯、味のついた飲み残し。
暗がりで目を光らせながら、ゴミと呼ばれるそれらを漁っていた。

「まぁ、たまたま……だよ？
というか僕の戦いで序列が決まったんだけど、負けなくて良かった……」

「いいよいいよ、これとか……大分強いと思うけど変な混ざりものとかはないだろうしさ。」

と、少年にウイスキーの注がれたロックグラスを差し出して。

「おさけ、おいしー」
「もっと持って。こーい」