「新鮮な喉とか言う嫌な概念を頭に刷り込まれたな……」
こういう時大したことに頭使ってねぇとスーッと入り込んでくるんだな……

「オレの夢はなあ……オレは殺されてえんだよ……
　殺してくれよ……さもなくば殺す……！」

「……少なくともチビではない」

やっぱり同胞以外に名乗ってやる名はないみたい。
で、帽子を指さしながら。

「名前にもじるならこれにして」

態度はでかい。

夢。夢の話はきらいではありませんでした。
こどもは言葉を持っていないので出てくるワードは皆無でしたが
誰かの言葉を聞いて空を見上げるくらいのことはできました。

『自分で死ねないのもなかなか。いや普通というべきかな。自殺は怖いものだし。』
新鮮な喉のことは一回忘れることにしよう。

「じゃあベレーで。」

　ベレーで。

買ってきたのか盗んだのか、串焼き肉を持っている。
適当な隅で食べているだろう。

「ならいい」

いいらしい。

「僕に夢はない」
「だが……誰かの夢を守る事はできるのか？」

「そいやお医者サマはよく医療ミスすンだよな？死体とかってどーしてんのォ？」

我が道を行くなあと夢見る子供を傍観。精の出る事だ。

「あちち」

煙草の灰に指の皮膚が炙られる。
ぼけっとしてちゃいけないな。

「見世物になってもお代出す人居なさそうですが……」

「その辺に埋めているが…」

部屋の隅を指差した。

「切ってくっつけるだけなら大得意ですよ、
　散々やってきたので」

ふふん、と胸を張っている。

「そうだよォ……オレは可愛そうだろう！？（言われていない）
　己に拳を向けても業が返るだけ！他者との間にしか救いはねえ！
　殺してくれよォ……代わりに殺してやるから！なっ！」

ズン……ズン……　大股で近付く。或いは適当に徘徊している（狂人なので）

「死を望むこと。
　それが叶うとき、生まれてきて良かったと思えるのでしょうか」
首を傾げます。

言葉だけの物よりも、実際に行動に移してる奴の方が危険度は高い癖にね。
最も、見世物だなんだと言ってる言葉で裏も透ける。

くすりと薄く微笑めば、新たに何かを燃やし灰燼と化した。
夢で明日が生きれる訳でもないんだしな。

「向こうに居た頃は病院から新鮮なお肉を届けて横流しもらったりもしていたから、
　てっきりお医者様にもそういう伝手があるのかと」

副業の為に敢えて死体を作る悪徳医師なんてのも
たまに聞く話だ。

「ェ〜！勿体ねェ〜。オレにくれよォ〜」

「そこの黒髪の子は……どうやら危険な医療行為を行なっているらしいな」

「医者としては、あまり認められたものではない」

多分向こうの方が技術上だよ。

「お、夢のチビスケ」

夢のチビスケ！？

「オレァいっぱい夢あるゼ〜カカッ」

串焼き肉を食べ終えた。
残った串は通りすがった人の服に適当に刺しておいた。最悪。

黙して聞いている姿。
ねずみを捌いてカリカリに焼いたものを口にしている。

眉間にしっかり皺を寄せた。
見たくもない。立ち上がる。

「ちうちちう……」
「やっぱり地下は落ち着くちうね」

「……僕なりのけじめの意味があって、弔っている。
　掘り起こす分には構わないが」

微妙に融通がきかない。

「こんなクソみたいな世界に生まれてきてよかった、なんてことはねえ」
「残ったのは業だけだ　前々の時代に啜られた搾りカス」
「それもクソ見てえなピカピカタワーやくだらねえ秩序管理屋に使われるばかり」
「一刻も早く死んで、何にも使われることのねえ無になる。それだけだ」

「やっぱりここねずみの国じゃねぇか」
なんかマスコットみたいなねずみも増えたし……。
多分ねずみの国名物みたいなの食ってる奴もいるし……。

「夢は、ある程良いものです。
　成熟した肉体と精神が伴えば、望むものに向かって行動できるのでしょう」

夢、というのはよくわからない。
曖昧に思う願いの事をそう言うなら、
果たしてそれを持ち続けることに何の意味があるのか。

「腹いっぱい食って誰にも邪魔されず生きることだな」

一番具体的な願いと言えばそれくらいか。

「ふぅん。弔いねェ？
弔っても死んだヤツァ喋んね〜と思うケドなァ」
「もう掘り起こされていね〜ンじゃねーノ」

「ねずみがふえてる。」

「未来の医療の為の崇高な犠牲を厭わない行為だと言って欲しい」

危ない。

増えたわね、ネズミ………

「やっぱり1匹10匹じゃない…」

「か〜っ悲観的ネ〜〜。
折角生きてンだから楽しみゃい〜のにィ」
「夢に向かって行動かァ。確かに行動はしてるカモ？常日頃ね、努力してますンでェ」

「ネズミが多いのなんて今更でしょ」
「どれが増えたとか気にしてられないし」

「やっぱ鼠帝国カモです」

「誰だオレに剣じゃねえモンを刺しやがったのは　ふざけやがって
　これじゃ浮気を疑われちまうじゃねえか！違うんだよ剣ちゃん……これは急にあっちから」

「……なんか丸いから、マルって呼ぶね。」

　新鼠に呼び名を付けていく娘。

「このまま増えたら耳のねぇ奴らを迫害できるかもな」

下剋上だ。

「亡骸は亡骸だ。
　掘り起こされてしまったなら仕方ない」

「稀に息を吹き返して自ら這い出してくる者もいるしな。
　僕はそれを期待しているのかもしれない…」

「……」

下剋上だとかねずみがどうとかが聞こえている。
何もかも諦めているのでどうでもいいな、としか思えなかったクソガキ。

「先がない。希望がない。もっともな話です。
　あたしもだからこそ自らの夢ではなく、他人の夢を探しています。
　子供が何か為すには遅すぎる。

　だからこそ、こんな世で抱く夢は、小さな人生を懸けて探すに値するものなのです」

「耳なしねずみなんですよ、あたしらは」
「是非とも仲良くしていただきたいもんです」

NO！迫害！

「……」

獲物が増えそうね、とは。静かな眼差し。
とはいえこうも無数に居るとその後や、対効果が悪いだろうから。
増え行くねずみ達を今は、静かに眺めるのだ。

ねず耳以外も増えないかな…

「下剋上でもなんでも構わね〜が、鼠っつ〜ならねずみ算式に増えて欲しいよなァ……鼠人間……」

無理？頑張ってほしい。

「あーね？めちゃくちゃ医療ミスする割にその辺の物言いは真艫なんだなァ〜」
「ま、いいや。困ったら掘り返させて貰おっかナ。今はいいや」

今はね。

「そんなポンポン増えんなら自分で増やして自分で食うだろ」
「耳あり人間は迫害されてんだぞ、黙って迫害されろ」

「耳を切り取って皆公平にしなくちゃ……」

「チョコレート♡よりも先生♡」　　　

「おはようございます皆様。
　自分は先生さえいれば
　何度でも息を吹き返して元気になりますよ。」

「よかったな、耳なし人間になれそうだぞ」

「健気だね　心打たれるぜ
　やっぱりガキは死ぬべきだ
　騙される前に　業で手が濡れる前に
　最後に残るのが絶望しかねえと知る前に」

「それもそっかァ。うまくいかね〜モンだなあ〜……」

しょんぼり。
鼠という位なら増えるスピードも弄ってくれりゃいいのに。研究者ってヤツは気が利かない！

「白衣着てるやつは頭か腕のどっちかがイカれてないと駄目なルールがあるのか？」

「鼠の獣人だろうが、僕は区別をしない。
　問題があれば診てもやれる」

「鼠が医療に齎してきた恩恵は計り知れないものだ」

「METROで見かける白衣の人間が真艫なのを期待する方が間違ってるのカモ」

「獣人だとか人間だとか」
「そんなので態度変えるとか馬鹿みたい」

「無限蘇生型ナース……。」

「わぉ、賑やかな事で」

物陰からひょっこり出て来た。

「ハローハロー」「お医者様もいるなら病気しても怪我しても安心だなぁ」

新しい鼠です。

「アレは藪医者だよ。」

　アレ呼ばわり。

「むしろ耳がついている方を優遇しますよ、切らせてくれたら」

「9割死んでも良いなら無料で受けれる優良な医者だぞ」

「ラセン君、おはよう。
　君も埋めたら這い出てきたタイプの子なのかもしれないね」

「致死率9割を安心と言い切るのは、侠気だネ……オレ感動しちまうョ」

「どんな謗りを受けても構わない。
　何故ならそれは事実だから」

「それでも僕が何ができる余地があるなら……メスを握るのだろうな」

「医者」
＊どちらにしろかかる時は＊
＊死の淵、放置すれば9割9分死ぬ時でしょう＊

「臓器を1個と引き換えに
　もうちょっとちゃんと診てあげられますよ、私なら」

「ヤブでも人診てくれるならマシだと思うね」

「中身が傷んでたら要らないけど……」

ぼそり。

「思い切り処方薬間違えてくるけど、
　それでも診てもらう？」

「先は知れているとはいえ、あたしはまだ生きています。
　命ある限りは探し続けるのでしょう」

「事実と異なる。薬が合っている時もある」

「先生、おはようございます。
　無限蘇生型ナースですっ。」

「地面の中で奇跡的に意識が戻ったのは、
　ユガミたちが共に生きる運命だったから……♡」

「…処方薬間違えるのはちょっとな……」

流石に引く。

「手術をミスるのは技術的なアレとして出す薬間違えんのはもうお前……」
気を使って最後まで言えなかった。そっか……合っている時もあるんだもんな……。

「まぁ」「ある意味此処らしいモノではあるんでしょうね」

医者も増えるんだ……

「……なんせ、此処はMETROだもの」

自由で。無秩序で。平等な場所。

「どっかで手足失くしちまったらオレが作るから、さ」

手足の保証なら出来ます。

「黙って迫害を受ける奴隷根性はございません」
「や、しかし、曙光の者と名乗れば誹りを免れぬのだから」
「今とあまし変わらぬかも」